【社説】大谷選手MVP 次世代に勇気与えた挑戦
米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手が今季のア・リーグ最優秀選手(MVP)に選出された。投打の「二刀流」による活躍で、大リーグの常識を打ち破り、一つの頂点を極めた。その挑戦する姿勢は、日米の野球ファン、とりわけ次に続く世代に夢と勇気を与えた。
投打「二刀流」で好成績
日本選手のMVP受賞は2001年のイチロー選手(マリナーズ)以来20年ぶり2人目の快挙。全米野球記者協会の会員30人による投票で、全員から1位票を得る文句なしの受賞だ。満票での選出は、15年のブライス・ハーパー選手(当時ナショナルズ)以来。
メジャー4年目の今季、大谷選手は投手として9勝2敗、防御率3・18、156奪三振。打者としてはリーグ3位の46本塁打、打率2割5分7厘、100打点を記録している。
大リーグで本格的に投打の二刀流でプレーするのは、レジェンド的存在であるベーブ・ルース以来。エンゼルスは大谷選手の登板日に指名打者(DH)を使わず、打者としても出場させる「リアル二刀流」で起用するなど常識を覆し、その期待に応えて二刀流としてはルースを超える成績を残した。
選手の分業化によって、チーム全体の力をアップさせる方向でプロ野球は進んできた。しかし野球は本来、打って、走って、守るという選手の総合的な能力で戦うものだった。大リーグ通算3000安打を達成しただけでなく「レーザービーム」の異名を取る強肩のイチロー選手が、07年の大リーグ・オールスターゲームで史上初のランニングホームランを記録し、新鮮な感動を与えて野球の原点を思い起こさせたのを思い出す。
大谷選手が二刀流の活躍に加え、リーグ5位の26盗塁を記録したのも特筆に値する。これは並外れた身体能力を示すだけでなく、チームの勝利のためにできることは何でもするという姿勢を表している。
グラウンドでも笑顔を絶やさず、しかも謙虚な姿勢は多くのファンの心を捉えた。個人よりチームとしての戦いに重きを置く日本に対し、米国ではチームへの貢献と共に個人の果敢な挑戦に拍手を送り、その達成を素直に評価する姿勢が強い。常にスター選手を求める風土の中、大谷選手の挑戦は大リーグの今後にも影響を与えそうだ。
大谷選手は日本の子供たちに「イチローさんがMVPを取ったのを見て、メジャーリーグに憧れるようになった。そう思ってくれるように、また頑張りたい。そういう選手が出てきてくれるのも楽しみにしている」とエールを送った。
若者は世界で活躍を
大谷選手の二刀流での活躍は、日本の子供たちだけでなく、米国の野球少年たちにも大きな夢を与えたに違いない。特に日本では最近、若い世代に内向き志向が強まっている。世界に出て頂点を目指し挑戦する姿は大きな刺激となろう。
大谷選手が米国人も驚く身体能力に恵まれたことは事実だが、その陰にはたゆまぬ努力、ケガとの戦いや、周囲の支えなどがあったことを思いながら、後に続いてほしい。