JR変電所火災 不測の事態への対応力高めよ
埼玉県蕨市にあるJR東日本の変電所の火災によって停電が発生し、首都圏を走る多くの路線が一時運転を見合わせた。一部は終日運休するなど約23万6000人が影響を受けた。
変電所の火災による大きな混乱は、これまでも繰り返されてきた。不測の事態を想定し、対策を強化すべきだ。
全線再開まで約7時間
火災は10日午後0時50分ごろに変圧器がある「トランス室」で発生。同時に送電が停止し、山手線や埼京線など首都圏の在来線が広範囲に運転を見合わせる事態となった。
この変電所は「基幹変電所」で、各地の変電所を通じて首都圏の駅や各路線に電気を送っている。社会生活に欠かすことのできない鉄道を支える重要施設であり、送電がストップすれば影響は大きい。
大半の路線は別の基幹変電所からの送電に切り替え、約1時間半後までに運行を再開した。だが京浜東北線と高崎線、宇都宮線は全線再開までに約7時間を要し、大きな混乱を招いた。主要駅では観光や買い物などで訪れたものの帰宅できず、運転再開を待つ人であふれた。10日は日曜日だったが、平日であれば混乱はさらに広がっていただろう。
変電所の火災は過去にも鉄道ダイヤに大きな影響を及ぼしている。1994年12月には東京のJR新宿変電所で火災が発生し、首都圏のJR各線が全面的にまひする事態となった。
2006年9月にはJR東京駅の鍛冶橋変電所で信号関係の配電盤が焼失し、京葉線が一時、全線で運転を見合わせた。08年4月には東京・国分寺市の変電所の火災で中央線が約7時間にわたって運休し、約50万人に影響が出た。そして、今回の火災である。これまでの対策は十分だったのか。
一方、7日夜に首都圏で発生した最大震度5強の地震でも、JR各線で一時運行がストップして多くの人が帰宅困難となった。この影響は8日朝も続き、京浜東北線や埼京線では混雑のために入場規制が実施された駅もあった。災害に対する脆弱(ぜいじゃく)性が表れたと言っていい。
変電所の火災と地震という原因の違いはあっても、大きな混乱を引き起こしたことに変わりはない。不測の事態への対応力を高めなければ今後も同じことが繰り返されるだろう。今回の火災の場合、電力の融通をスムーズに行う仕組みがあれば、もっと短い時間で全線再開できたのではないか。
火災は機器のトラブルによるものとみられているが、地震後に変電所で行った臨時点検では異常はなかったという。JR東は原因を解明し、再発防止策を講じる必要がある。
テロ対策も強化せよ
変電所に関してはテロの標的とされる恐れもある。サイバー攻撃などで機能がまひすれば、その影響は計り知れない。テロ対策強化も欠かせない。
鉄道に対するテロでは、1995年3月に営団地下鉄(現・東京メトロ)で地下鉄サリン事件が発生している。JRをはじめとする鉄道各社は、利用客の安全確保に不断の努力を続けてほしい。