菅氏出馬断念 政策論戦で「新たな顔」を
菅義偉首相が自民党総裁選に出馬しない意向を表明した。前日には二階俊博幹事長に立候補する考えを伝えたばかりの心変わりである。
首相の求心力低下が如実に表れたものだが、国民の目は厳しい。自民党内の不協和音を一刻も早く収束させ、総裁選での複数の候補者による活発な政策論争を通じて「新たな顔」選びをすべきである。
策に溺れ前に進めず
首相は8月下旬、9月内の衆院解散見送りを党に伝達。ところが総裁再選を危ぶむ見方が広がると一転して総裁選前の解散もあり得るとし、既に日程の決まっていた総裁選を先送りするとの観測が駆け巡った。翌日にはそれを否定。3日に臨時の党役員会と総務会を開き、役員人事の一任を取り付けた上で新しい党役員を発表して内閣改造にも踏み切る考えに変わった。
首相としては新たな態勢で総裁選を勝ち上がり、その勢いで衆院選に突入するとの計算があったろう。しかし、臨時役員会では一任を得られなかった。二階幹事長の交代で事態の打開を図ろうとしたが、その人選もできなかった。前に進む道をふさがれた首相は、総裁選への出馬を断念せざるを得なくなった。場当たり的で、再選への策に溺れて自ら身動きが取れなくなってしまった結果と言えよう。
首相は「新型コロナウイルス対策と選挙活動を考えた時に、両立できない」と語った。新型コロナ対策では、東京都の新規感染者数が連続して12日間前週を下回っている。9月末には約6割がワクチン接種を済ます見通しとなり、重症化予防のための「抗体カクテル療法」の導入など明るい兆しも見えてきた。だがコロナ対応の評価が低く、内閣支持率は低迷している。
自民党内には「菅首相では選挙の顔にならない」といった批判が噴出していた。確かに、衆参両院の国会議員選挙などで連戦連敗している。
しかし「コロナ対策をして国民の命と暮らしを守る」とアピールして取り組んできた首相を党としてどれだけ支え、国民への説明不足を補う努力をしてきたのか。むしろ、政府の感染症対策分科会の専門家らに丸投げしてきていなかったか。
自民党議員一人ひとりが自覚すべきは、党内の権力争いのゴタゴタを早急に終わらせ、本来の政策をめぐる争いができるように軌道修正することである。首相は「新型コロナ対策に専念したいので総裁選に出馬しない。任期は全うする」と語った。
国難の今、緊急に必要なのはコロナ感染拡大阻止策と経済政策のはずだ。首相は経済対策の取りまとめを自民党に指示した。党内には30兆円規模の財政出動を求める声も出ている。政権党による政策の見せどころのはずである。
党員・党友の信頼を
総裁選は、全く新たな展開となる。出馬表明した岸田文雄前政調会長のほか、複数の候補が意欲を示している。肝要なのは、派閥の多数派工作で勝利を目指すことではない。新総裁は次期衆院選の党の顔であり次の首相でもある。党員・党友からも信頼され支持される人物の選出が求められよう。