熱海土石流1ヵ月、危険な盛り土の解消を急げ
静岡県熱海市の土石流災害の発生から1カ月が経過した。起点付近にあった盛り土が被害を拡大させたことが問題視されている。
県の基準超過の疑い
この土石流では、これまでに22人の死亡が確認され、行方不明者5人の捜索が続いている。避難生活を送る被災者は約300人に上る。心身のケアをきめ細かく行う必要がある。
既に罹災証明書の発行や公営住宅の入居受け付けが始まっている。県や市には被災者の生活再建を十分に支援することが求められる。
県によると、土石流は起点にあった約5万5500立方㍍の盛り土が崩落して発生。土砂は約2㌔下の港まで到達し、131棟の住宅が被害を受け、うち44棟が流失した。
盛り土は神奈川県小田原市の不動産管理会社が搬入したもので、市への届け出では高さ15㍍、約3万6000立方㍍となっていた。しかし、実際は高さ35~50㍍、約7万立方㍍で県の基準を超過した疑いがある。
同社は届け出を超える面積の森林を伐採したほか、盛り土に産業廃棄物が混入していたことが発覚し、県から少なくとも5回の行政指導を受けていた。だが、罰則もある措置命令が出なかったのはなぜか。
危険な状態を解消できずに今回の被害を招いたとすれば、同社はもちろん、県や市の責任は極めて重い。家族を亡くしたり自宅を失ったりした住民の中には、県と市、土石流の起点付近の土地所有者らに対し、損害賠償の請求を検討している人もいる。県は徹底的に検証し、土石流の原因を解明することが求められる。
一方、静岡県の規制が緩いため、盛り土が集まってくるとの指摘も出ている。静岡県の条例は自治体への届け出制で、最も重い罰則が罰金20万円。これに対し、神奈川県では知事の許可が必要で、三重県は2年以下の懲役または100万円以下の罰金となっている。
危険な盛り土を許さないためにも、静岡県は条例を改正して厳罰化を進めるべきだ。他の都道府県も盛り土に関する規制を確認する必要がある。
盛り土を行うことの多い宅地造成や山林開発では、法律に基づき、一定の面積を超える場合は都道府県の許可を得なければならない。こうした場合、盛り土に災害対策を講じることも求められる。
ただ、残土処分や小規模な造成などは自治体の条例の適用対象となることが多く、盛り土の安全対策が緩い事例もある。こうした条例に基づいて山林に残土を処分するケースが続発しており、造成された盛り土が崩落して死亡事故も起きている。国は全国の盛り土を総点検し、危険なものがあれば解消を急がなければならない。
悪徳業者の取り締まりも
残土は年間発生量の2割に当たる約6000万立方㍍が再利用されず、この一部が不適切に処理されている。金と引き換えに残土を引き受け、規定を超えた埋め立てや盛り土を行う悪徳業者もいる。
こうした業者の取り締まりも強化する必要がある。