日本遺産 国内観光振興の起爆剤に


 地域の歴史的魅力や特色をストーリーとしてつなぎ、貴重な日本の文化、伝統として文化庁が認定する「日本遺産」に21件が新たに追加され、全部で104件となった。国内外への発信を強化し、観光振興や地方創生につなげたい。

認定が100件超える

 日本遺産は全部で100件程度を目標に2015年に18件が初認定され、それ以降、毎年追加認定されてきた。今回、東京都から「霊気満山高尾山~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」が初めて選ばれたことで、全都道府県を網羅した。100件を超えたことで、文化庁は当面新規の募集を行わない方針で、今後は認知度の向上やブランド強化に努める。

 日本遺産は、各地域の有形・無形の文化財を地域が整備活用し、地域活性化を図るために制定された。最大の特徴は、日本の文化や伝統を語る魅力的な「ストーリー」を持つことである。基本的にはある地域に根差し、歴史的に継承されてきたものだが、ストーリーを軸に地域を横断したものもある。

 例えば、登録リスト筆頭の「近世日本の教育遺産群―学ぶ心・礼節の本源―」は、明治以降の近代化の原動力となった藩校や郷学、私塾で構成され、茨城県水戸市の旧弘道館、栃木県足利市の足利学校跡、岡山県備前市の旧閑谷学校、大分県日田市の咸宜園跡など4県にまたがる。共通のストーリーで近世の教育遺産を浮かび上がらせた。

 今回認定されたものの中にも「かさましこ~兄弟産地が紡ぐ“焼き物語”~」(栃木県、茨城県)や「海を越えた鉄道」(福井県、滋賀県)など、地域同士の交流のストーリーもある。

 104件の日本遺産のリストを見ると、わが国には各地方にこんなにも豊かな歴史・伝統・文化が継承され息づいていることに感心させられる。日本遺産は、われわれ自身が日本の伝統を再発見するプロジェクトと言っていい。認定を契機に、地域住民がアイデンティティーを再確認し、地域ブランド化への意欲を高めることが期待される。

 課題は、これらの遺産をいかに内外に発信し、観光振興や地方創生につなげるかだ。新型コロナウイルスのパンデミックが続く中では、世界的に海外旅行の停滞は長期に及ぶ可能性が高い。当面インバウンドに期待することは難しい。

 こういう状況の中、国内旅行がこれまで以上に盛況となる可能性がある。鎖国政策が取られた江戸時代に国内の産業や文化が熟成されていったように、国内観光のグレードアップも夢ではない。それが将来海外旅行が活発化した時、インバウンドの大きな資源となるに違いない。日本遺産認定が100件を超えたのを機に、その魅力的なストーリーが国内観光振興の起爆剤となることを期待したい。

メディアの役割も大きい

 日本遺産は、世界遺産と比べてその知名度と注目度がまだまだ低い。

 世界遺産を特集したテレビ番組は数多いが、日本遺産特集は少ない。それぞれの地方が発信の努力を重ねていくことはもちろん、テレビを中心としたメディアの役割も大きい。

(サムネイル画像:日本遺産ポータルサイトより)