情報覇権で牙むく米中

 技術開発のスピードが、米中関係を決める鍵になると注目されている。米中の貿易摩擦の根底にあるのは、中国の技術覇権を叩(たた)く上での布石にすぎない。現在、技術覇権と表現されているが、この2カ国が牙をむき出しにして互いを凌ぐ勢いを削(そ)ごうとするのは、データ覇権、つまりは情報覇権の戦いだ。軍事覇権への懸念がある。

 2018年暮れにかけて、オーストラリア、米国を発端としてスマートフォンの世界シェア第2位の中国テクノロジー企業ファーウェイを第5世代(5G)通信網向け機器の調達から締め出す動きに、ニュージーランド、日本、フランス、イギリス、ドイツも同調を加速させている。軍事利用への懸念が大きい。

 先月、米国からの要請に基づくカナダでのファーウェイ副会長の逮捕、それに報復する中国が本国でカナダ人を3人拘束、その後、米国司法省は中国のハッカー集団である「APT10」のメンバーが中国情報機関の国家安全部の支援により米国の先端技術を窃盗したと断定し、わが国の外務省もAPT10によるわが国の企業や学術機関をターゲットとしたサイバー攻撃を非難する声明を出した。

 一昨年までは海外でのサイバー関連会議では、ほぼロシアのハッキングについての議論が中心であったが、昨年はサイバーイシューや国家安全保障戦略、科学技術についての議論が中心となり、直近の会合では米中の貿易戦争の流れを肌身で感じた。それは価値、イデオロギー、そして地政学的争いについて深く論じるものでもあった。

 世界インターネット会議は、14年から中国浙江省で開催されている。当初の目的は、中国のインターネットの将来像や情報技術を世界に見せるものだった。今年、中国はサイバー主権のコンセプトを強調し、欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)は国境を超えた合意管轄として懸念を表した。また、サイバー規範についての国際対話において、サイバー協力を論じる際に常に陥っていたイデオロギー対立を切り離すことが重要だと位置付けた。

 昨年の当会議で注目すべきは、中国側からさまざまな部門や層の参加が多くを占めた点だ。西側同様、中国はサイバーアーキテクチャーやセキュリティーに疑問を呈する議論が盛んであった。米国大手IT企業は責任を問われないようワシントンのロビイストたちに多額の金を握らせてきたが、中国が密(ひそ)かに当分野で将来的に優位に立つようなことがあれば皮肉だ。

 中国人民解放軍の高級教育機関である国防科技大学で開催された第5回国家安全保障戦略と科学技術についての国際会議では、人工知能(AI)や他の先端技術が国政術、戦争にかかるインパクトが議論された。今後も継続して議論されるポイントだ。現実的政治に固執せず、AIの進化などの現象について参加者の中国の若い世代がテクノ熱狂から慎重に評価するまでに至るさまざまな視点を提示したのは特筆に値する。

 より優れた技術を有している政権が全体主義になるのではない。全体主義体制を目指す国が当体制を確立するのだ。中国が今後も経済発展モデルを加速させ、世界で情報覇権を握る上で根本的な譲歩をする可能性はほとんどゼロに等しい。