軍事演習が示す中露関係

 9月初旬にモスクワからシベリア地方で行われたロシアの軍事演習「ボストーク2018」は、特筆すべき点が二つある。一つ目は30万人もの兵士が参加した冷戦以来の大規模なものであったこと。二つ目に初めて3200人もの中国人民解放軍を招き入れ、実質的に露中合同の軍事演習であったことだ。過去においては、例えばベラルーシなど正式な軍事同盟を結んでいる国との合同演習が常だった。

 また、同時期にウラジオストクでは東方経済フォーラムが開催されていた。習近平国家主席も出席、今年3回目のプーチン大統領との会談を行った。中国はこのたび、1000人を超える圧倒的人数でプレゼンスを見せ、ちなみに日本側からの参加者数はこの半分であった。

 ロシアは4年前、前回の軍事演習以来、経済・軍事とも台頭している中国との関係強化を図っていた。2015年には両国が互いにサイバー攻撃を行わないサイバーセキュリティー協定に調印している。

 現在ロシアは、シリアやウクライナに対して、中国も米国に対しては安全保障および貿易問題、南シナ海における領土問題で日本、フィリピン、ベトナム等に対してと、それぞれ他国との間で生じた軋轢(あつれき)への対応で手いっぱいであり、不利な関係は避けたいのが本音だ。

 また、両国の政権の共通の政治目標は、安定性と予測可能性を優先し、何よりも政権の維持である。国連においては両国とも常任理事国のメンバーであり、主権と他国からの内政不干渉を軸とする国際秩序を打ち出し、サイバー空間における規範やインターネットの管理の主張に見られるように、互いを支持している。

 ロシアの中国との結託に進むまでの背景は戦略的だ。一つには1969年に起きた国境紛争の対立を乗り越え解決に至っており、二つには両国の経済依存関係に注目したい。ロシアは原料輸出国である一方、先端産業技術を手に入れられないという弱点があり、中国は莫大(ばくだい)な石油やガスを消費する一方、潤沢な海外投資の資本を持つ技術先進国であり、ロシアにとって理想的な貿易パートナーである。現に2010年以来、中国はロシアの一番の貿易パートナーである。

 ロシアは、中国の軍需産業界の目覚ましい発展は巨大な研究開発によるものであり、今後ロシアの武器輸出パートナーになる可能性は低く、中央アジアへの中国進出は避けられないと結論付けた。

 現在、マレーシアをはじめ、モルディブ、スリランカ、パキスタン、ミャンマーなどは中国の「一帯一路」政策への警戒心を深め、計画の見直しを図っている。中国が中央アジアに進出するとしても、ロシア主導の貿易圏であるユーラシア経済連合(EAEU)により、ロシア企業はカザフスタンやキルギスタンの市場に優先的にアクセスでき、中央アジアに安全保障を提供できると自負しているロシアの存在を脅かさないのであれば目をつぶる。

 西側諸国の一般通念では中露関係は根底に不信が満ちており、両国がパートナーシップを結ぶのは現実ではない。が、その視点をベースとする各国の外交戦略も見直しを迫られている。

 過去に縛られた希望的観測は危険である。そして、米国の中国とロシアへのあからさまな敵対心が中露関係の発展に起因していることは紛れもない。