強まる北朝鮮サイバー戦力
現在、全ての目が12日に開催予定の米朝首脳会談に注がれている。米国側は、検証可能で不可逆的な核放棄を北朝鮮側に強く求めているが、ポイントは核廃棄の検証とその達成方法だ。北朝鮮が核実験施設を閉鎖すると表明したことは歓迎すべきだが、世界は今後もサイバースーパーパワー国である北朝鮮が「核を放棄したとしてもサイバー攻撃はやめない」という現実に向き合わねばならない。
米国やその同盟国に対する北朝鮮の大規模な破壊力を持つサイバー攻撃力は、核同様、手塩にかけて育ててきた最も重要な国家資産だ。トランプ政権が金正恩労働党委員長に非核化を促せば促すほど、金政権はサイバー兵器に固執する。米朝首脳会談をはじめ、今後の協議次第では地域を不安定化させる力を誇示するツールとして活用させるだろう。
つい先週も米国当局は上記事例に関連した、北朝鮮政府主導の二つのマルウェアの存在を突き止めている。日本や韓国との取引に当たっても、彼らはサイバー兵器を活用して脅迫する可能性は十分にある。北朝鮮のハッカー集団「APT37」が、韓国に対するサイバー窃盗を目的とし、中国のハッカーと攻撃技術の情報交換をしている可能性もある。
北朝鮮は自国の軍隊をコントロールするためにも、米朝会談後も大いにサイバーパワーを駆使することが目に見えている。北朝鮮は強力な政府支援で開発したハッキングプログラムを所有しており、デジタル一斉攻撃で他国の商業活動を止め、民間人の生活の妨害をすることに注力している。
去年、世界で猛威を振るったサイバー攻撃「ワナクライ」、2016年のバングラデシュ中央銀行へのサイバー犯罪、14年のソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントが被った企業情報の暴露など、記憶に新しい。
米国政府ならびに同盟諸国は、悪意のあるサイバー活動を封じ込めようと制裁を科し、ハッカーの名前を公表するなどしてきたが、北朝鮮の抑止には程遠い。
サイバー空間の平和的利用という穏やかな表現ではなく、サイバー攻撃が実際に金政権に甚大な結果をもたらすと、例えば的を絞って政府高官に渡航制限をかけるなど、もっと高いコストを課す必要がある。同盟国同士、明確なメッセージを打ち出すなど根本的な見直しが必要だ。
過去、北朝鮮は制裁を科されようとも、サイバーセキュリティー企業が公表する資料など目もくれず、新たなマルウェアの開発、ゼロデイエクスポロイト(まだ確認されない脆弱(ぜいじゃく)性)の悪用などサイバー攻撃を続けているのが現状だ。
ここ一連の北朝鮮非核化を目指す動きを通して、米中露3国など各国の思惑が露呈している。ロシアのラブロフ外相は金正恩朝鮮労働党委員長との初の会談後、北朝鮮に対する制裁圧力は逆効果との声明を出し、一貫して反米の姿勢を出した。
北朝鮮は米中両大国から中立的な立場の確立を実現したい考えだ。3日の日米韓防衛相会談では、北朝鮮の完全な非核化支援の共同声明が出された。米中間の壮大な取引を通してわが国は各国が複数のスタンダードを持つ現実を突き付けられている。