過熱する情報戦争 露の意図的なサイバー攻撃
脅威に対応する米欧
現在、ロシアを含め、政治的、法的、メディア、インテリジェンス、心理的かつサイバー戦争といった手段を利用することにより、自国の戦略目標を達成すべく、重要な情報戦争能力を高める国が目立つ。
本稿ではロシアの歴史にも触れつつ、サイバーオペレーションの現在の状況について考察を述べたい。
米国国防情報局(以下DIA)は昨年、ロシアの軍事力にかかる新たな報告書を発表した。(レーガン政権が1980年代に特に旧ソ連の脅威に焦点を当てた報告書を出し始めたのがきっかけ)。当報告書で、情報戦争はロシアにとって世界のトップに立つという野望を叶(かな)えるための手段だと述べている。
英国は先月、フェイクニュースや偽情報に対応する国家安全保障ユニット設立の声明を出した。2015年、NATOはリガに調査機関、戦略コミュニケーション・センター(Strat Com)を、17年にはEUとNATOの指揮のもと、ヘルシンキにハイブリッド脅威に対抗すべく欧州研究センター(Hybrid CoE)を設立した。
先般、ロシアのカリーニングラードへのミサイル配備計画やウクライナへの戦略爆撃機配備は、87年に米露間で調印された中距離核戦力全廃条約に違反しており、NATOは加盟国間の軍事作戦の拡大を決定した。加えて、昨年秋にNATO国防相理事会は冷戦以降初めて、加盟国間において軍事活動を強化することも明言した。現在、トランプ政権は中露を含む他国の脅威に備え、核での反撃を見据えた核戦略の見直しを公言している。
ロシアは今後一層、サイバーオペレーションに注力するだろう。
ロシア革命当時レーニンは、ウクライナの国家主義者の大望や、ロシア帝国における他の民族などから革命に内在していなかった現象を受け入れた。ボリシェビキがアジプロ(扇動宣伝)やプロパガンダに打ち込んでいたロシア革命に見られるように長い情報活動の歴史を持つ。
同様に、「RT」(ロシア・トゥデイ)やスプートニクといった情報発信源は、ロシアが望む方向で物事を進めるトレンドを単に増幅しているに過ぎない。これは過去100年変わらないロシアの手法であり、既存の潮流に乗り、脆弱(ぜいじゃく)性を搾取し、大きな流れを受け入れて、他国の注目を引く。これはロシアが強いという狙い通りのイメージを効果的に発する。
ロシアのサイバー攻撃は90年代の「Moonlight Maze」(米軍・政府・研究機関のコンピューターへの侵入事件)の事例に見られるように、はるか昔に遡る。ロシアはサイバーオペレーションが情報の窃盗のみならず攻撃力を持つことを理解している。サイバーオペレーションは極めて巧妙に情報操作、プロパガンダ、また、かつてKGB(旧ソ連国家保安委員会)が呼んだ“積極的対策(偽情報を含む)”と交わっているのだ。
全て戦略的思考の一部
我々は既に大国の戦争の渦の中にいる。07年、ミュンヘン国防政策国際会議でのプーチン露大統領のスピーチはNATOの東方拡大、米国の単独行動主義を厳しく批判した。米国政府高官筋はこの発言を宣戦と捉えたものの、その後のロードマップを描くだけの十分な想像力を持ち合わせなかったという。翌年のいわゆるハイブリッド戦争と呼ばれる通常戦争に情報攻撃も加わった08年のグルジア(現ジョージア)戦争で、ロシアのサイバーオペレーション力に気づいた。
軍事的観点からすれば、ロシアの戦略的思考では核から政治的努力まで全てひっくるめた一つの大きなツールキットであり、ハイブリッド戦争などない。米大統領選挙へのサイバー攻撃での全面的な介入もこのロシアの戦略的思考の一部だと理解すべきだ。