日韓首脳会談に望む 日韓合意を譲らざる決意で
遺憾な文政権の対応
120年前の新聞社説に福沢諭吉は次のような憤懣やる方ない思いを書き残している。
「…斯る国人に対して如何なる約束を結ぶも、背信違約は彼等の持前にして毫(ごう)も意に介することなし。既に従来の国交際上にも屡(しばし)ば実験したる所なれば、朝鮮人を相手の約束ならば最初より無効のものと覚悟して、事実上に自ら実を収むるの外なきのみ」(『時事新報』明治30年10月7日付)
やはり文在寅(ムンジェイン)政権は慰安婦問題を蒸し返した。またもや韓国の「ちゃぶ台返し」だ。李氏朝鮮から大韓帝国、そして大韓民国と国名は変われどもこの国は未(いま)だに外交上必須の信義を守ることを知らない。
北朝鮮の平昌冬季五輪参加が決まった韓国と北朝鮮の閣僚級会談が行われた先月9日、康京和外相が2015年の慰安婦問題に関する日韓合意への対応方針を発表した。
新聞紙の記すところによれば、その梗概(こうがい)は「合意は公式なものであり、日本に再交渉を要求しない。合意に基づいて日本政府の予算で拠出した元慰安婦を支援する和解・癒し財団の資金10億円を韓国政府予算で充当し、今後の処理方法を日本と協議する。日本が自ら元慰安婦の名誉と尊厳の回復に努力することを期待する。当事者の意思を適切に反映していない合意は真の問題解決にならない」というものである。婉曲(えんきょく)で巧みな言い回しではあるが、これは日本側に事実上の追加措置を求めるもので、合意の再交渉の提案に他ならない。
2年前の日韓合意は、日韓両国外相の共同声明で「慰安婦問題に関する最終的かつ不可逆的な合意を導き出すことができた」と明らかにした。
日本側の声明には「慰安婦問題は軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している。安倍内閣総理大臣は改めて慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」とし、「この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」ことが盛り込まれた。
にも拘(かかわ)らずである。文政権はこの合意による解決を否定したのだ。文大統領は「日本が真実を認め、元慰安婦に心を尽くして謝罪することが完全な解決になる」と主張した。安倍首相のこの深甚なる謝意の表明では不足とでもいうのか。これ以上の謝罪とは何なのか。
これが従来の韓国政府の遣(や)り口で、自国世論の反発を避けるため自らは「誠意ある謝罪」の具体的な内容を示さず、従軍慰安婦問題の解決策を一方的に日本政府に押しつけて来たのだ。
将来への責任を訴えよ
これまで加藤官房長官、宮沢首相、河野官房長官、村山首相、小渕首相らが、日本政府として次々と謝罪と反省を繰り返して来たことは醜陋(しゅうろう)な媚態(びたい)を呈しただけであって、本問題の解決に何ら資することはなかったのである。
言うまでもなく1965年の日韓基本条約と同時に締結された日韓請求権・経済協力協定において、両国間の賠償請求権は「完全かつ最終的に解決された」と明記されている。
過去の日本の行為が韓国に如何なる被害を与えたとしても、条約や協定の締結で斯る行為の清算は終了し、道義的な責任も解消する。これが国家間の厳粛なルールなのだ。
安倍首相は9日の平昌五輪の開会式前に文大統領と首脳会談を行う。日韓合意を一歩も譲らざる決意を示し、政治家にとって大切なのは不毛な過去の責任問題の追及でなく、将来に対する責任であることを強く訴えねばならない。