米大統領アジア歴訪 北の核にトランプ外交徹底

押し切られた習主席

 去る11月5日から7日にかけて米国のドナルド・トランプ大統領が来日し、安倍晋三首相と首脳会談を行った。これに先立つ3日から4日にかけては、われわれは同大統領のご令嬢にして補佐官たるイバンカ・トランプ氏のたおやかな姿も目にすることができた。その後、同大統領は7日の訪韓を経て、8日から9日には中国を訪れて習近平国家主席と会談し、さらにベトナムやフィリピンで開催される国際会議へと出席する。

 ところで、この時期にトランプ大統領がアジア諸国を歴訪する理由は、大きくいって二つある。最大の懸案は、言うまでもなく北朝鮮の核・ミサイル問題への対応であり、いま一つはアジア・太平洋地域の経済関係において米国の有利な立場を確立することである。

 こうした意図に従い、まず訪日して日米同盟の盤石さを世界に向けてアピールしつつ、有事支援の確約を取り付けると同時に、通商関係における日本の譲歩を要請したわけである。

 次に訪韓して、万が一米国が北朝鮮を攻撃した場合には、韓国が共に参戦しつつ民間人被害を最小限に食い止めるための避難計画を策定するとともに、米国製の軍事物資の大量購入を韓国政府に命じた。

 さらに訪中して、長らく懸案となっている不平等な為替レートの問題を取引材料として、有事の際に人民解放軍が軍事介入をしないように中国に圧力をかけた。また、ベトナムやフィリピンに対しては、このように一定期間の米中和解がなされても、明らかに国際法違反である南沙諸島の人工島は許さないという方針を通達するとともに、環太平洋連携協定(TPP)離脱後も米国がアジア・太平洋地域において確固とした経済的役割を果たす意思を示すのである。

 こうした一連の政治日程の中で最も注目すべきは、米国が果たして中国を押さえつけられるかどうかにあった。例によって中国は、豪勢な歓迎サービスで目くらましを展開し、重要案件の決定についてはのらりくらりと煮え切らない態度でごまかそうとしたが、共同記者会見におけるトランプ大統領の発言にみられるように、さすがの習主席も原則論を繰り返すばかりで、同大統領の強い決意と勢いは止められなかったようである。

日本は米露の仲介を

 ただし、これで北朝鮮が譲歩して交渉のテーブルに着かない限り、戦争開始のXデーが秒読み態勢になったわけではない。米国が北朝鮮を実際に攻撃できる最終的かつ最大の条件は、ロシアの動向である。

 もし米国が北朝鮮と開戦した場合に、極東ロシア軍が介入すれば中国の人民解放軍も参戦する可能性があり、トランプ大統領としてもこれは避けたいシナリオである。

 従って、実は北朝鮮問題の動向を左右する最終的なキーパーソンがプーチン大統領であることが分かる。

 それ故に、トランプ大統領にとって安倍首相にかける期待は甚大であり、米国とロシアが今もってウクライナ問題、シリア問題の事情から敵対国の関係である以上、日本はこの両大国の仲介役として歴史上特筆すべき重要な役割を課せられていると言える。北方領土の共同開発を経済発展への起爆剤として期待するプーチン大統領としては、日本とは今後も良好な日露関係を望むからである。

 11月中旬以降、安倍首相は中国とロシアを相次いで訪問する予定であり、同首相がここでどのような政治的手腕を発揮できるか、北朝鮮問題にとどまらず、いよいよ日本と日本国民にとっての国家百年の計が問われる時期が到来したと言える。