9・11以降の世界 国が全国民をネット監視
“一匹狼”テロが主流に
16年前の2001年9月11日以降、人類社会は大きく変わった。国家間の戦争より非国家主体のテロ集団との戦いが、主旋律の時代になった。
ニューヨーク、ワシントンといった米国の大都市は皆、危機管理センターを持つようになった。それらは街中の監視カメラさらには監視センサーの情報をコンピューターで一括管理し、それが緊急時には地元の消防、警察そして軍等と、共有されるシステムが、広く確立された。
だが、それでは足りなかった。特に最近のテロは、国際的組織が明確に背景で計画を動かす大規模なものより、インターネットによる広報活動を通じて影響を受けた人々が、個人として起こす、いわゆる一匹狼型テロが、主流になってきたからである。
そこで各国ともネット上のテロ勧誘等に対する監視に、より力を入れ始めている。例えば英国は15年、Spooner’s法を制定し、ネット関連会社等に過去1年間に、どのサイトに各顧客がアクセスしたか等の情報を保存し、それを必要なら警察に提供することを義務付けている。だが各ネット関連会社で各顧客が使っているパス・ワードやIDが分からなければ、提供された情報の内容が分からない。
そこでメイ首相は6月初旬、各国が協力してネット関連会社に対し、情報の中身を見られるようにすることを、義務付けることを提案した。
これはトランプ政権による入国管理強化政策とも繋(つな)がっている。
トランプ政権が成立して以来、幾つかのイスラムの国に対して行っている入国管理政策は、実は入国を希望する者が使っているSNS等のIDやパス・ワードを教えれば、入国を認めるという側面もあるのである。これはオバマ政権後期より、任意で要請されていたもので、それをトランプ政権は強化しているだけなのである。何れにしても米国は、遠くない将来、入国を希望する人全員だけではなく、アメリカ国民全てのSNSのIDやパス・ワードの提出を、求めるようになるに違いない。誰が大統領だったとしても…。
そうすれば全ての人が、どのような発言をネット上で行い、どのような情報―例えば以前にあったテロ事件の手口やテロ思想等に関して検索しているかが、容易に政府機関に分かるようになる。そうなれば、どのようなテロ事件も、事前防止が可能になる。
恐怖なき『1984年』
それはジョージ・オーウェルの小説『1984年』的な世界の実現であると恐れる人が多いかもしれない。だが、それは悪いことだろうか?
確かにオーウェルの『1984年』のラストで主人公は、秘密警察の完全な精神監視により、精神的に破綻する。だが、それは“自らや宇宙を創り動かす超越者が自らの精神の外部にある”という欧米聖書文明の考え方に立っているからである。この考え方では他者の監視は、超越者と自らの関係を断ち切り、自らの精神を破綻させる。
しかし彼の精神的破綻は、三島由紀夫最後の超大作『豊饒の海』のラストで、自らの外部存在である少年が輪廻(りんね)転生の主人公ではないのではないかという疑いに陥った時、副主人公が陥る精神的破綻と似ているようにも思える。あの小説の中で展開される“自らや宇宙を創り動かす力が自らの精神の内部にある”という東洋思想に立ち戻れば、副主人公の精神は破綻せず、むしろ理想の精神状態に昇華できるのではないか?
日本人は東洋文明の深淵を自覚し、それを欧米人に伝えて行くべき時だろう。それは『1984年』的監視社会を恐怖の社会ではなく、むしろ人々を奥深い“解脱”の境地に誘う社会だという理解を広め、ネット監視を肯定的に受け入れる契機となるだろう。