ロシアゲートで見る米露 板挟みになるトランプ氏
巧妙なトリックの関係
先日トランプ大統領は自身のツイッターで、ロシアが昨年の米大統領選に介入した疑惑、いわゆるロシアゲートに基づき、新たな経済制裁を課したことを受け、米露関係が歴史上危険な状態にあるとつぶやいた。米露関係を史上最低にしているのは議会に責任があると非難し、トランプ自身はしぶしぶ制裁法に署名した。
明確にしておくべきは、国家間における大きな可能性を含んだ将来的な関係は政策ありきだが、プーチンとトランプをつないでいるのはあくまでも政治であり、もっと言えばレトリックということだ。トランプにとってプーチンは当初から自身の政治を推し進めていくための、いかにオバマ・ドクトリンを覆せるかの挑発的なシンボルであり、プーチンにとってトランプはヒラリーとは真逆にある、ロシアの影響や政策を強化するための担保としての存在だ。
過激派対抗措置のため、中国との関係修復、さらには北朝鮮の脅威に取り組む目的でロシアとの関係進展に期待を寄せる声も多い。しかし、両国間の軍事共同開発や、7月のG20(20カ国・地域)サミットの際、米露会談でトランプがプーチンに提案したという「サイバーセキュリティー不可侵部隊」など現況では考えられず、シリアやウクライナの問題や従来の米露関係に横たわる両国民の不信感など現実的課題が妨げになっており、共通の基盤は捉えにくい。
ちなみに、2008年オバマ政権時代にも米露関係の“リセット”を宣言し、サイバーはロシアと協力できる分野として、当時ロシアのインテリジェンス関係者とのミーティングを持ち、サイバーの安定性を試みたのは皮肉だ。
トランプとプーチンが互いに主張する相互尊重は、実際には問題をさらに深刻化させるにすぎない。今やトランプ大統領は自身が板挟みになり、苦境にある。もはや米国民に主張していることにもロシアの期待にも応えられない局面にある。
露のハイブリッド戦争
14年の秋、ロシアの潤沢な資金力を持つサイバー諜報(ちょうほう)集団「ザ・デュークス(The Dukes)」と呼ばれるAPT攻撃(高度で執拗〈しつよう〉で脅威となるサイバー攻撃)集団が米国務省のコンピューターシステムに侵入した。前年にロシア国防省は科学的情報活動の大軍勢を敷くと発表していた。
元KGB(旧ソ連国家保安委員会)大佐等が15年に言及したところによると、ロシア国内で数百人の技術スペシャリストたちが企業から国営のサイバーチームに移動し、今ではオンライン上で活動している治安部隊が千人に及ぶという。
同年、FBI(米連邦捜査局)は民主党全国委員会のコンピューターネットワークがハッキングされたことに気づき「The Dukes」によるものだと証拠づけたが、結局、全面的なサイバー防衛対応には至らなかった。これはその後、ロシアが米国の分断を狙った、米国にある既存の混乱と不信を深める成果につながっていく。オバマ時代に政治破壊活動、エスピオナージ、プロパガンダ、そしてサイバー攻撃を通して敵国の政治的社会的状況を意図的に形成するハイブリッド戦争が本格化した。21世紀の情報戦争だ。
今、プーチンにとってロシア側の戦略的な喫緊の懸案は、トランプの弾劾であろう。自国の経済、地政学的な弱さを埋めあわせる方法が必要だ。伝統的な方策には限界があり、核兵器が世界のパワー大国としての重要性を示すものかはもはや不明だ。だからこそロシアは米国内に社会の混乱を創り出し、不穏に悩まされる国はやがて自滅していくと信じている。――ロシアが手を下さなくとも。
(敬称略)