日露首脳会談の結果 領土譲らず実益得る露

安保認識甘い経済協力

 60年前の1956年の日ソ共同宣言以来、冷戦時代の歴史が未(いま)だアジアにつきまとっている。

 安倍首相が15~16日に臨んだプーチン大統領との今年4回目の首脳会談は、日露間の膠着(こうちゃく)状態が続く中、互いの政権が安定している今こそ、長きにわたる北方領土問題に一定のけじめをつけるもくろみであった。

 結果、どんなに日本側が体裁を整え、経済協力面を推進しようともロシア側からは肝心の領土問題など存在しないとにべもない。安倍首相側が提言している「新しいアプローチ」にもどこ吹く風だ。

 冷戦後、欧州とは異なり、アジアの冷戦時代における地政学の地図は決して引き直されることはなかった。東西ドイツは統一されても北朝鮮と韓国は未だ分断されたままである。長引く北方領土交渉も歴史が生んだ負の遺産である。

 日露関係を進めていく上で考えるべき1点目は、喫緊の課題として我が国は今後、北朝鮮、日露、日中、中露、米中、米露関係などから成る東アジアの国際情勢にどう戦略を練るか。年明けに新たな幕を開ける次期米大統領の安全保障、外交政策が既に影響を及ぼし始めていることからも日露関係で新たに風穴を開ける必要があった。こちらの脇の甘さが露呈した感も正直拭えない。

 プーチン大統領は10月下旬には平和条約締結に当たり、日本とそれほどの信頼関係ができていないと述べ、11月には北方領土の防衛力を強化すべく、択捉島と国後島に新型の地対艦ミサイルシステムを配備し、領土問題の存在を否定さえする姿勢を明らかにした。

 NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大、欧米からの経済制裁を受ける中、常に「安心」できないロシアの立場としては、北方領土に米軍の駐留は譲れないのは当然である。北方領土はロシア側にとって経済問題ではなく、安全保障上、譲れない場所なのだ。そういったことを鑑みても我が国は日米関係を築いていかねばならない。ロシア政府は日本を研究し尽くしている。我が国はどうか?

 2点目は現在、ロシアが巡らす情報戦やサイバー攻撃、偽旗作戦などを含むハイブリッド戦争である。

 日露首脳会談が進む中、次期大統領選の集計結果がサイバー攻撃により不正操作されたとする問題で、米国ホワイトハウスはロシアの国家的なサイバー攻撃の関与について疑いの余地がないと公式に声明を出した。CIAの捜査結果にFBIも支持を示した。極めて民主主義的な象徴をも自国の国益に沿わせるロシアの采配力がうかがえる。来年選挙を控えるドイツなど欧州は既に他国と協力して対露策を取り始めている。

 内政に不信の渦を巻き起こさせる手法はロシアの常套(じょうとう)手段である。ロシアのバルチック艦隊が置かれるバルト海や、ロシアの飛地領カリーニングラードに囲まれたバルト3国は次の標的であり、虎視眈々(たんたん)と情報戦を日々繰り広げている。

対外向けの情報機関を

 ここで考えるべきは、日本は対外向けのインテリジェンス機関の設立を急ぐことだ。こういった国々と渡り合っていかねばならないのが現実だ。ロシアは今後もサイバー分野での諜報を駆使し、外交政策に利用する。我が国は情報戦略にかかる根本的な課題を突き付けられている。世界情勢はもう「まさか」とは言わせてくれない。

 プーチン大統領とは信頼を構築していると自負していた安倍政権であるが、プーチン大統領は見事なレトリックで、実益を握った。我が国は相手に天秤(てんびん)に測らせるだけの情報力を磨いていくことに尽きる。

 日露関係は地域の均衡策にも必須であり、同関係の安定がロシアと西側諸国とのブリッジになる。