トランプ氏の“新秩序” 自民族優先主義を再評価
慣例破りこそ真骨頂
難航していた米国次期国務長官にエクソンモービル社会長ティラーソン氏が選ばれた。彼の主導により同社はロシアとの合弁会社をシベリア等で成功させてきた。そのため彼はプーチン大統領と親しく勲章までもらっている。このような人物に米国の国益を守る外交ができるのか? という批判が、民主、共和両党内から出ている。
だがロシアとの関係改善は、トランプ次期大統領の悲願でもあった。
またトランプ氏は、12月2日、台湾の蔡英文総統と電話会談し「米国と台湾の経済、政治、安全保障面での強固な結び付き」を確認したという。また同日にトランプ氏は、フィリピンのドゥテルテ大統領とも電話会談し、同大統領は「トランプ氏は我々の麻薬戦争をよく理解している考えを示した」と述べ、トランプ氏に親密さを感じたと語った。
これらのことは通常の外交慣例を逸脱したものという批判も多い。実際、トランプ氏の政権移行チームも、この2人とは電話で祝意を受けたことしか認めていない。
だが従来の慣例を破り新しい秩序を形成することこそトランプ氏の真骨頂ではないか? では、その“新秩序”とは何か? それを私は「新・自民族優先主義」と呼びたい。
蔡英文氏もドゥテルテ氏も、自民族優先主義者である。プーチン氏は言うまでもない。トランプ氏本人も選挙中の発言からは、そのように言って良いだろう。
従来の国際政治学で自民族優先主義は、戦争に繋(つな)がる危険なものと考えられてきた。確かに20世紀の歴史を見ると、そうだった。
だが21世紀に入って人類の社会は大きく変わった。加速し過ぎるグローバル化が、各国内の従来産業等の急速な崩壊による経済的な格差拡大と、人の移動促進による伝統的共同体の機能不全を起こしている。それこそが麻薬問題を含むテロの原因である。
このような事態を収拾するには、少なくとも一時的に、自民族優先主義を再評価すべきではないか? 確かに米国は多民族国家なので、その大統領になる人が自民族(白人)優先主義者だとしたら望ましくない部分もある。だが同時に、米国が白人ピューリタンにより築き上げられてきた国家で、いまだに白人が多数派であることも事実だろう。
だからトランプ氏は選挙で選ばれて次期大統領に決まった。蔡英文、ドゥテルテ両氏も選挙で選ばれている。プーチン氏でさえもが(形式的でも)選挙で選ばれ、投票による民主制を止める方針に今のところはない。
愛国者でグローバルに
やはり20世紀までの自民族優先主義者と彼らとは違う。完全な独裁体制を志向してはいない。彼らはグローバル化に不安を持つ一般人の代表として選ばれているのである。
そして協力してグローバル化にブレーキをかけようとしているように私には思える。20世紀とは違い21世紀では自民族優先主義者同士こそが協力できる面もあると思う。
確かにロシアは力を付け過ぎれば西進して来る可能性はある。それもNATO(北大西洋条約機構)内外での自民族優先主義政権同士の協力で封殺できると思う。フランスのルペン氏等の当選に、期待したい。
国連やEU(欧州連合)本部あるいはウォール街やシリコンバレーで働くグローバル化エリートたちには、これは困る現象かもしれない。だが彼らは自らが世界的な経済格差拡大や伝統共同体の破壊を起こしていることが分かっていないのではないか?
そのような人々に次の格言を思い出してもらいたい。「真の世界市民とは、真の自国の愛国者でなければならない」。真に意味あるグローバル化とは、自民族優先主義こそが実現できるものではないだろうか?