トランプ米政権の登場 リアリズム時代の外交力を

日露協調と日米同盟

 昨年12月は、日本外交にとって大きな節目となる出来事が相次いだ。一つ目はロシアのプーチン大統領が来日し、日露協調の進展が見られたことである。

 ロシアの立場に立てば、日本は彼らが対立する米国の同盟国であり、未(いま)だにEU(欧州連合)諸国の対ロシア経済制裁に加わったままの国である。おまけにわが外務官僚が領土返還という歴史的要素にこだわる姿勢を崩さないばかりか、日本の強靭(きょうじん)な経済力に飲み込まれてしまう危険性すらある。

 こうした事情下でありながら、たとえ北方領土の返還はならずとも、中国や北朝鮮の頭を押さえつける地政学的な位置を占める軍事大国であり、同時に、液化天然ガスをはじめとする資源大国たるロシアに将来的な協調関係を約束させた意義は大きい。

 もう一つは安倍首相が真珠湾を訪問し、日米同盟の結束を確認できたことである。そもそも米国民にとっての真珠湾とは、無敵の強さを誇った彼らの歴史において唯一の敗北を見せつけられる場所であり、同じ敗北でも、外地で戦い自らの意思で撤退したベトナム戦争と、自国の領土を焦土とされた真珠湾とでは意味が大きく異なる。

 特に、日米戦争は米国にとっても日本と同様の死闘となった戦いであり、その意味で真珠湾は、かつて西洋の覇者であった彼らと東洋の覇者であった日本が悲劇的な頂上決戦を繰り広げた記憶を象徴する場所である。こうした場所で両国の首脳が、まともに戦い抜いた者同士だけが結ぶことができる真の同盟の結束を確認できた意義は大きい。

 ところで、これら二つの外交的成果は、TPP(環太平洋連携協定)からの離脱や難民宥和(ゆうわ)の制限を掲げ、国益優先主義を標榜(ひょうぼう)するアメリカの次期大統領たるトランプ氏への牽制となる。史上最大の悲劇をもたらした20世紀の両大戦への反省から、人類は戦後の長きにわたってアイデアリズム(理想主義)の時代を作り上げてきた。しかし今や世界各国の人々は、そうした未曾有の経済成長によって支えられた夢の時代から覚醒しつつあり、より眼前の現実を直視するリアリズム(現実主義)の時代を迎えつつある。

 その最たる現象がトランプ氏の当選であったと言える。そのような世界のトレンドの渦中にあって、日本もまた自らの国益を確保しつつ平和で豊かな社会を維持しなければならない。その場合に最大の懸念すべき要素は言うまでもなく中国と北朝鮮の存在であり、とりわけ中国の太平洋進出の野心にどのように対応するかは日本の死活的な問題である。今般の日露協調の進展と日米同盟の確認は、その意味でこれからおよそ四半世紀続くであろう日中冷戦の時代に対応できる準備となったと言える。

巧みに国益を守れ

 総括すれば、今後の日本外交の基軸が日米同盟、日露協調、日中冷戦の3本柱であることが理解できる。2017年は、これら三つの柱をしっかりと確立せねばならない重要な年となる。今のところトランプ氏は、オバマ政権時代の路線を修正し、ロシアとは協調しつつ中国には批判的な意向を示してはいる。しかし、何らかの情勢変化によって米国の国益事情が変われば、彼が日本に厳しい態度で臨む政策を選択する可能性がある。

 その時、日本は、ロシア・カードとアメリカ・カードを巧みに使い分けながら、これまで培ってきた世界中の国々からの信頼を生かしつつ、自国の国益を守るために上手に立ちまわる必要がある。それがリアリズムの時代に日本の政治家や官僚、そしてわれわれ国民に課せられた使命となることをよく自覚しなければならないであろう。