トランプ当選、理性文明に人間が勝利

理性主義は正しいのか

 米国大統領選挙で、トランプ氏が当選した。それは人間の勝利であった。何に対する勝利か? それは理性や理性の生み出したハイテクやグローバル化に対する勝利だった。

 いま舞台上演中の『メトロポリス』は原案映画と違う部分もあるが、基本的にはハイテクが生み出した人工知能(AI)や、それを動かせる少数のエリートに、それ以外の普通の人間が一方的に支配され、前者だけが豊かになり、後者は生きていくことも難しい未来を描いている。原案映画製作は約百年前だが、まさに今を予言している。

 それはレーガンも驚く規制緩和で米国経済を表面上は活性化し、その規制緩和で儲(もう)けた企業などから莫大(ばくだい)な献金をもらってきたクリントン夫妻に重大な責任がある。

 このような支配を止めさせるため、『メトロポリス』における女性アンドロイドのように、普通の人間による反乱を主導したのがトランプ氏であった。この戦いは勝利した。

 『メトロポリス』の最後は、エリートたちを倒した代わりに彼らに動かされていた世界全体も大破綻を起こす。同じことがレーガン以上に経験もスタッフも不足しているトランプ氏が大統領になれば、起こると危惧している人は多い。

 だが、そこで大破綻を起こす世界のシステムは、理性中心の文明が生み出したハイテク化やグローバル化により、エリートと普通の人との格差を拡大するものでしかないのではないか? 金融システムが最も分かりやすい例だろう。

 安全保障政策でも、ハイテク兵器の運用などを中心としたシステムは同様である。もうハイテク兵器を駆使できる高学歴エリートでなければ一兵卒にもなれない。武士道精神も騎士道精神も西部開拓者精神も、いつの間にか忘れられた。それはハイテクなどと相容(い)れない反理性的なものだからか?

 トランプ氏は何度か“差別的発言”で窮地に立たされた。だが、あの発言を“差別的”と考えるのも理性主義的なものである。この考え方を突き詰めていくと、“人間が動物と同じ行為をするのは良くない”ということになり、子供が産まれなくなっていくのではないか?

 実は私はグローバル化やハイテクが生み出したAIなどに取って代わられ、人間がいなくなる現象は止められないと考えている。『メトロポリス』の最後は、それを暗示している。

グローバル化遅らせよ

 だが、徐々に人間が子供を産まなくなって自然にAIに世界を明け渡すのと、あまりに早く普通の人に仕事も所得もなくなって人々がテロなどに走らざるを得なくなり世界中がシリア化するのとでは、前者の方が絶対に望ましい。その実現にはグローバル化を遅らせるしかない。ハイテク・ビジネスとはグローバルに行わなければ意味がなく、グローバルな情報交換などが減少すればハイテク化の速度も遅くなる。

 トランプ氏の米国大統領当選もイギリスの欧州連合(EU)離脱も、グローバル化を遅らせ、全世界のシリア化を防ぐ意味がある。トランプ氏が大統領になることで一部の人々が危惧している国際的な経済・金融や安全保障面の大破綻が起きても、全世界のシリア化より悲惨な状況にならないと思う。

 あえて言えば、その大破綻により世界のシリア化を遅らせることができる。グローバル化、さらに背景の理性文明を疎外することによって。それが、トランプ氏当選や英国のEU離脱の真の目的かもしれない。その目的を目指すのは、エリートに疎外された普通の人の集団的無意識かもしれない。それは間違っていない。今は橋を壊して壁を作ることが、必要な時だろう。