新孤立主義と日米同盟 次期米大統領に備えよ

「非支持者」動向が鍵に

 いよいよトランプ大統領の誕生が現実味を帯びてきた。共和党の対立候補たちが撤退し、事実上同党唯一の候補者となったのである。それに比べて民主党のクリントン候補は、いまだにサンダース候補の執拗(しつよう)な食い下がりを断ち切れないままにある。最近の世論調査では、いずれの媒体でも両者の支持率は40%前後で拮抗(きっこう)しているらしい。

 トランプ大統領誕生の可能性をどうしても認めたくない米国のメガメディアは、彼の前途に共和党の内紛という暗雲を設定したがる傾向がある。これまでの選挙活動で他の候補者を過激に批判してきた恨みを買っているので、共和党がトランプ支持で全面的にまとまるのは難しいというわけである。

 しかし、実は共和党以上に深刻なのは民主党の分裂の方である。なぜなら、共和党の内紛は多分にトランプ候補の過激な発言と対立候補への個人攻撃が生んだ人間的な「内紛」の要素が強いのに対して、民主党内には大きな変化を望まない中高年層と抜本的な変革を望む若年層との構造的な対立があり、クリントンかサンダースかの選択は、より現実的な政策の選択をめぐる「分裂」の状況だからである。

 こうした事情に鑑みれば、大統領選挙の帰趨(きすう)の決定的な要素は、おそらく、それぞれの候補者への「支持者」よりもむしろ「非支持者」の動向であることが予想される。すなわち、共和党の中の反トランプ票と、民主党の中の反クリントン票が、それぞれの政党の垣根を越えてどれほど対立候補へ流れるかが勝敗のカギとなるであろう。

 いずれにしろ日本にとっては、もはや次期大統領が誰になるのかを論じるよりも、果たして誰が大統領になっても不都合が生じないための対策を論ずるべき時期が来ていると考えられる。なぜなら、今後は誰が大統領になろうとも、日本にとっては厳しい時代となることが確実だからである。トランプ候補であれクリントン候補であれ、アメリカの国益確保を優先した内政重視のスタンスを取っており、対外的には「世界の警察官」としての役割から撤退するオバマ路線を継承する意向を表明している点をよく踏まえるべきであろう。要するに、新しい孤立主義の時代を迎えたアメリカへの対応という認識が必要なのである。

 もちろん、アメリカの次期大統領が誰になるかは、同盟国の国民として大変重要である。しかし、それ以上に重要なことは、いかなる大統領が誕生しても、アメリカにとって変わりなき重要な価値を有する同盟国としての条件は何か、そのために日本は何をするべきかを現実的かつ具体的に考えて実行することである。

 今やアメリカは、第1次世界大戦以来100年近く続いた国際主義の時代を終焉(しゅうえん)させ、リアリズムを基盤とする新しい孤立主義の外交路線に転換する入り口に立っている。なればこそ、日本もまた理想主義の体裁で取り繕われた幻想の意識を捨て去り、リアリズムの意識を根底に据えた国家社会を構築するための思い切った変革を遂行すべきである。

財政出動で景気回復を

 こうした対応に必要不可欠な条件は、何と言っても景気の回復である。現状の金融政策に偏った経済政策を改め、金融政策と並行して大規模な財政出動を遂行し、早急に経済力を回復して「日米同盟を重視すると得だ」とアメリカに感じさせる状況をつくることが必要だ。特に、有効需要を創出するための消費支出の増大を阻害しないように、経済的な論理を無視した政治的な論理に基づく拙速な消費増税は避けるべきである。つまり、必要なことは「増税なき財政出動」である。

 憲法を改正して軍事力を整備しようにも、行き詰まりを見せている社会保障制度を再構築しようにも、それらの政策の財源は決して天から降っては来ない。それは政府の的確な経済政策の助力を得て、われわれ国民が稼ぎ出さなければならないのである。