防げなかったパリ事件 驚愕のISサイバー活用

脅威の性質が変わる

 今年はパリのシャルリ・エブドを襲った連続テロ事件で幕が明け、「イスラム国」(以下IS)によるパリ同時多発テロにより、グローバルな安全保障のあり方が劇的に変わろうとしている。

 米国でのISに関連する大規模なテロ事件で、銃規制の議論が再燃し、来年に向けた米大統領選でのテレビ討論では、テロ対策としてイスラム教徒の米国入国を禁止する政策についての議論が白熱している。

 テロリズムの脅威から難民の入国拒否を標榜(ひょうぼう)する声が欧米内で上がり続けている。

 国際レベルでの政治的緊張が高まっており、国連安保理は初のシリア和平に向けた決議案を採択、同じく、初の財務省会合でIS対策として資金源の遮断を決議した。ISのテロ活動の根絶に向けて、問題の本質に切り込む姿勢だ。難民、対テロ対策を目的とした欧州国境警備隊の創設も急がれている。

 パリ同時多発テロで多くのインテリジェンス関係者が驚愕した。インテリジェンス関係者の誰もがこの攻撃を前もって予測することができず、彼らにとって致命的な出来事と言える。

 クウェートのサイバーセキュリティー企業が、元々はガザで活動するジャーナリストや人権活動家に向けて作成し、一般を対象としたアクセスできるサイバーセキュリティーガイドをISは自由に利用し、オンライン上でテロリスト間に配布していた。パリ同時多発テロが発生した2週間後も、そのマニュアルはオンライン上でアクセスが可能だった。

 ISによるテロ活動の背景にあるのは、インターネットとソーシャルメディア(以下SNS)だ。

 ISというテロ組織はサイバー空間を利用し、近年の目覚ましい技術ツールをテロ活動に持ち込み、与えうる脅威の性質を変えている。ISによるサイバー空間上でのビデオメッセージ、オンライン雑誌、SNSやツィッターアカウント(少なくとも4万6000存在すると言われている)は若者のリクルーティングを目的としている。

 一方、フランス内務省の法務・自由権局(DLPAJ)はテロリストの通信手段を阻止することを目的に、Wifi(ワイファイ)フリースポットの利用の禁止を検討する法案を掲げている。

 世界的規模のテロ攻撃で、我が国主導の国際イベント開催についても懸念される。

 我が国は来年5月に開催される伊勢志摩サミット、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに先駆けて米国とのサイバーセキュリティー協力に合意し、インテリジェンスの共有、ハッカーに対応できるだけの人員育成の強化につとめる。

 外務省は今月初めに「国際テロ情報収集ユニット」を発足、国際テロ情報に特化した形で立ち上げた。

 我が国はテロに立ち向かった経験が無く、国民は長きに渡ってテロは対岸の火事と捉えてきた。しかし、ISは年初にシリアでの日本人2人の殺害、チュニジアでの日本人観光客3人の襲撃を通し、日本もISのターゲットであると明言した。

 ISによる重要インフラを狙ったサイバー攻撃の可能性もある(河野国家公安委員長12月2日ブルームバーグ対談)。

 我が国で急ぐべきは質の高いインテリジェンスの確立だ。

新たに国際的対応を

 英知の結集と国家を超える相互理解のための政治的対話を含む新しいフレームワークが求められている。

 サイバー規範の確立も急がれており、来年、NATO共同サイバー防衛センター(CCDCOE)はサイバー戦争と国際法の関係性をうたうタリンマニュアル2・0を出版する予定だ。

 テロに対し、報復措置の実施として、適切な軍事行動でイデオロギーに挑むことは必須だ。サイバー空間とオフライン(現実の世界)両方での対応が迫られている。