21世紀の安保法制を 反対学者が誘う疑心暗鬼

国民安保法制懇の狙い

 「安全保障関連法案」(以下、安保法制と呼ぶ)に関する議論は、いまだに国民的な合意ができず、判断が割れている。

 その原因は、6月4日、衆議院の「憲法審査会」で、野党推薦の小林節名誉教授(慶大)と笹田栄司教授(早大)だけではなく、与党が推薦の長谷部恭男教授(早大)までが、安保法制に「違憲」との評価を突きつけたため、安保法制反対派を勢いづけてしまった。

 長谷部氏が「違憲」と述べることは、小林氏と共に、安保法制に反対するグループ、「国民安保法制懇」の有力メンバーである以上、当然、予想された結論であった。

 「国民安保法制懇」のホームページには、「『政府解釈の変更』によって集団的自衛権の行使を容認しようと極めて拙速にことを進めており、…政府の恣意的な『解釈変更』によって、これまで憲法が禁止してきた集団的自衛権行使を可能にすることは、憲法が統治権力に課している縛りを政府自らが取り外すことに他ならず、立憲主義の破壊に等しい歴史的暴挙と言わざるを得ない」との主張が掲載されている。

 学問的な主張のように見せたデマを主張することで、国民を疑心暗鬼にさせ、「国民安保法制懇」が志向する方向に導こうとする手口である。

 井上達夫教授(東大)によれば、「護憲派の中でも最近、『専守防衛の範囲なら自衛隊と安保は九条に違反しない』とはっきり言い出す人たちが出てきた。憲法学会では長谷部恭男さんが代表です。私は彼らを『修正主義的護憲派』と呼んでいます。…『専守防衛の範囲なら』云々の内閣法制局見解は、すでに解釈改憲ですよ。だから、護憲派が一時期、安倍政権による解釈改憲から内閣法制局が憲法を守ったなんていったけど、これはウソで、新しい解釈改憲から古い解釈改憲を守ったにすぎない」と述べる(『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』毎日新聞出版、2015年)。

 私見としては、安倍内閣による新しい解釈改憲は、「憲法解釈是正のための解釈改憲」と呼ぶのが相応(ふさわ)しいと考えている。ようするに、安倍総理自身の信念、「憲法を国民の手に取り戻す」を実践したと理解している。

 続けて、井上氏は、「私はまず修正主義的護憲派に言いたいのは、自分たち自身が解釈改憲をやっているのだから、安倍政権の解釈改憲を批判する資格はない、ということ。安全保障に関する自分たちの政治的選好を解釈改憲で実現・維持しようと自分たちがしていながら、安倍政権が、自分たちと違う政治的選好を解釈改憲という同じ手段で実現しようとするのはけしからん、というのは通らない」とも述べる(同書)。

 井上氏の指摘は、長谷部氏だけではなく、小林氏、笹田氏の主張にも該当する。

憲法解釈で情勢に対応

 安倍総理は、20世紀に制定された憲法下での解釈や、その憲法解釈を前提とした安全保障政策では、21世紀の国際情勢には対応ができない、と合理的な判断をした。その際、防衛費などのコスト面を含め、多角的かつ総合的に勘案したものが、21世紀の安保法制と憲法解釈なのである。

 21世紀の安全保障で最も大切なのは、私が5月29日の本紙「オピニオン」欄で主張したサイバー攻撃と、宇宙戦なのである。

 特に、今まで経験したことがない本格的なサイバー攻撃は、将来、起きる。その時に、日本一国の力では、絶対に対処はできない(拙稿「自衛権と専守防衛-サイバー攻撃の視点から」『防衛法研究 創設40周年記念 臨時増刊号』内外出版、2015年)。

 もし、本格的なサイバー攻撃が発生したならば、サイバー攻撃の自覚すら出来ない状況下になる場合も予想される。サイバー攻撃に対しては、米国などと集団的自衛権を行使できる関係を築き上げることが、現時点での対応策なのである。