北陸ベンチャーの落日 雪国まいたけの悲劇に学ぶ

騒乱の6月株主総会

 北国のベンチャー企業で知られる「雪国まいたけ」が、近年、お家騒動で揺れている。最近もこんな派手な出来事を、越後の里から伝えてきた。

 それはさる6月27日のこと―。同社は新潟・南魚沼市のホテルで株主総会を開いた、それは朝から波乱含みの様相で、まず創業者で前社長の大平喜信が手を上げ口火を切る。それは議長の座を求める発言だった。

 その結果、会社側が用意した星名光男社長を筆頭とする、8人の取締役の再任案は葬られ、大平前社長グループが用意した取締役6人体制の新しい案が採用された。

 それは新社長に鈴木克郎(元ホンダ専務)、社外重役に中原伸之(元東亜燃料工業社長、日本銀行政策委員会審議委員)、大塚政尚(スノーヴァ=人工雪のベンチャー=元社長)といった肩書をもつ面々を揃えた人事案だった。

 結局、同社はその大平派が用意した後者の新しい人事布陣で、企業業績の立て直しに取り組んでいくわけだが、果たして失った信用をどこまで取り返すことができるのか。再建は可能なのか。

 同社は前社長の大平喜信氏が30年ほど前、まいたけの人工栽培に成功。一大キノコベンチャーとして成長発展を見せてきたが、ライバルのホクトなどの成長によって市場を侵食され、近年は苦戦を余儀なくされている。

 そこでもやし、カット野菜などの分野へ進出する一方、ライバル、ホクトが得意とするブナシメジ、エリンギなどの新規分野への進出を企図してきた。しかし期待を寄せたブナシメジの自社菌開発には失敗。2012年、2013年の3月期は、2期連続で巨額の赤字を計上せざるを得なかった。

 その責任を取って大平社長は社長を退かざるを得なくなり、2014年11月、社長の座を星名光男取締役に譲り渡し、顧問へと退いた。星名氏はイオンの出身で財務分野でのキャリアが長く、財務面を見て貰うべくスカウトした人物である。

 しかし大平氏は身一つから「雪国まいたけ」を立ち上げ、上場企業へまで育て上げてきた創業者として、簡単に権力の座から身を引くような人間ではなかった。

 前述のように経営主導権の奪還をめざし、クーデターを起こし、星名光男氏を社長の座から引きずり落し、ホンダ出身の鈴木克郎氏を新会長兼社長に据えた、新しい体制を発足させた。

 しかし大平氏は鈴木克郎、大塚政尚(元スノーヴァ)、中原伸之といった人材を揃(そろ)えたにも拘らず、キノコ事業への情熱を失ったのか、あるいは継続資金の限界を感じたのか、2015年2月になって、保有株を外資系の投資ファンド「べインキャピタル」へ売却。とりあえずキノコ事業から手を引く道を選んだ。

 日本のキノコ王ともいえる大平喜信経営を振り返ってみたとき、経営者としてたくさんの問題点があることも目立つ。その一つが公私混同。彼は稀代の女性好きの性格で、愛人を、それも複数社内で堂々と雇用し、恵まれた給与とポストを与えていた。それは社員の嫉妬と不満を招いた。

地元企業を失う地方

 日本では、すかいらーく、日本風力開発、ドミノ・ピザなどのTOB(株式公開買い付け)で知られた投資ファンドでもある。べインキャピタルの所有になった「雪国まいたけ」は、今後、どのような企業に変わっていくのか。

 「雪国まいたけ」も創立32年の歴史で、オーナーである大平一族の手元から離れた。雪国新潟の地域では数少ない地場企業、地元産業を手放すことになる。それでなくとも少ない地場企業を手離すことは、それだけ地元は雇用の場を失うことになり、多分口惜しいことであろう。