内から外への所得移転 手順前後を誤った経済政策
内需依存型企業に打撃
政府あるいは日銀の政策転換ないし内外の政治・軍事・経済動向の変化は、国内経済の動向に決して軽視できぬ影響を及ぼし、その影響は対外経済分野でも国内経済分野でも軽少ではない所得移転を引き起こす要因になる。いわゆるアベノミクスを柱にした経済・金融政策の展開の下で、どんな変化が進行しているか、その変化は望ましいものか、そうではないのか、所得移転のありよういかんを軸に考えてみたい。
最初に、日銀の超々低金利政策。アベノミクス登場より以前に始まっているが、驚くほど巨大規模の利子所得を預金者から奪い、相応して日本最大の債務者としての政府への所得移転を推進中、一般大衆の消費購買力を相応に減殺している点は景況にマイナス。筆者は長期のゼロ金利政策は行き過ぎと判断する。
経済低迷下の利子率低下は必然としても、現況は木を見て森を見ずの類いで、もっぱら財務省サイドに立っての、筆者としては共感しかねる政策だと考える。
次に、昨年4月からの消費税率8%への引き上げ。増税はすべて民間から政府への所得移転にほかならず、その額は、ごく大ざっぱに年額十数兆円、アベノミクスが民間から政府への巨大な所得移転を先行させたことは、どう好意的にみても重大な手順前後の誤りといわざるを得ない。企業経営者に対する政府の賃上げ要請には、民間から政府への所得移転―それも巨額の―の国民経済に及ぼすマイナス効果を弱めたいとする政府の意図がすけてみえる。
三番目に、日本円の対外交換レート変動。これには政治・軍事・社会その他の諸要因が複雑に交錯して所得移転に直結する。が、1㌦=119円前後で推移している現況は、日本から海外への所得移転が極めて巨額―筆者には計量不能ながら―に達していることを明らかに示している。観光と買い物を兼ねて海外からの訪日客が増えたことは、必ずしも悪いことではない。
だが、訪日客の増加も輸出産業とその周辺関連企業の活力増も、円安がもたらす所得移転の反映に他ならず、そのマイナス効果は内需依存型の諸企業とその従業員だけでなく消費者としての国民大多数に及ぶ。ここでも、国内から海外への巨大な所得移転発生状態が、それも長期にわたって継続していることになる。
もはや国辱的な円安に
筆者の独断に基づく見方では、1㌦=90円台前半での相場変動が望ましく、100円どころか120円にもならんとする現況は、経済運営策がうまくいっていないこと、換言すれば政府・日銀の施策による所得移転が決して望ましい方へ運んではいないことを、明白に示している。
かつてと違い、政策の支援で輸出伸長を促進せざるを得ない時代ではない。所得移転の大ざっぱな現況観察からしても、アベノミクスは手順前後を誤ったというべきだろう。
ずばり、アベノミクスの下での所得移転は、経済合理性に照らして決して望ましい状況にあるとは言い難い。財政・税制・金融政策ともに、望ましい所得移転はいかにあるべきかの観点から、根本的・総合的に見直してもらいたい。そうなれば、“国辱的”な円安も変わってこよう。