人質殺害と宣伝に憤る 「イスラム国」壊滅を目指せ

極めて残虐な犯罪組織

 今月1日早朝、「イスラム国」に拘束中のジャーナリスト後藤健二さんが殺害されたとのニュースに日本中が聳動(しょうどう)した。インターネットに公開された映像は、首を掻(か)き切り殺害するという正視に耐えないまことに残忍なものであった。

 後藤さんを殺害した黒覆面の男は「日本政府に告ぐ」として「安倍、勝ち目のない戦争に参加するお前の無謀な決断により、このナイフは健二を殺すだけでなく、どこであろうと日本人の虐殺をもたらし続けるだろう」と脅迫した。

 これに対し、安倍首相は「非道、卑劣極まりないテロ行為に強い憤りを覚える。テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携していく。日本がテロに屈することは決してない。食糧支援、医療支援といった人道支援をさらに拡充していく。そして、テロと戦う国際社会で、日本としての責任を毅然として果たしていく」と揺るぎない決意を表明した。

 当然の発言である。そもそもこの「イスラム国」とは「国家」と言える代物ではなく、実体はテロリストのアブバクル・バグダディという男が勝手に「カリフ」(イスラム教の開祖である予言者ムハンマドの後継者)を僭称(せんしょう)して統治する擬装国家であり、言わばイスラムを騙(かた)る犯罪組織である。

 「イスラム国」という化外(けがい)の地で繰り返される常軌を逸した蛮行は、インターネットを通じて世界中に配信され、身の毛も弥立(よだ)つ映像が「イスラム国」に対する恐怖感を増幅させ、残虐さを誇示することによって相手を屈服させるという恐怖の宣伝戦略がこの犯罪組織の常套(じょうとう)手段として採用されているのだ。

 外務省は2011年4月にシリアを最も危険度が高い「退避勧告」に指定しており、今回、後藤さんのシリア入国を再三、中止するよう要請したというが、「何か起こっても責任はすべて私自身にある」と言い残して後藤さんは「イスラム国」へ向かった。「自己責任」に言及する言質をこのように残して行ったことは、ジャーナリストとしての矜持がなせるもので、私は心から敬服する。しかし、結果は囚われ、「イスラム国」の道具として利用されてしまった。

 また報道によれば、これほど危険で外務省が退避を呼び掛けているにも拘わらず、朝日新聞の複数の記者がシリア国内に入って取材をしているそうであるが、「イスラム国」に拘束されたらどうするのか。もう「自己責任」ということでは済まされまい。朝日新聞の記者に「生きて虜囚の辱めを受けず」の覚悟があるのかを問いたい。

 無辜(むこ)の民衆を虐殺し、誘拐や略奪など残虐の限りを尽くす「イスラム国」に対して、安倍首相が「イスラム国」対策として表明した2億㌦の人道支援は、避難民への医療や食糧支援であることをいくら強調しても、人道の観念を持たない相手に通じるはずがない。非軍事に限定した日本の支援が「十字軍」への加担と見做(みな)し宣戦布告をしてきたのだ。

日本は旗幟を鮮明に

 ここに至っては、日本は旗幟(きし)を鮮明にして行動せねばなるまい。国際正義の実現に寄与するため60カ国超の有志連合の一員として、「イスラム国」の壊滅を目指すべきである。

 それには万が一、有志連合のどこかに「9・11」のような大規模なテロ攻撃が発生した場合、日本は集団的自衛権の行使が可能となるのか、再び決断が迫られる。テロとの戦いについても集団的自衛権の行使を容認するのかどうか、明確な見解を求めるものである。