危険ドラッグにNO!を 教育で訴え続ける必要

急増する社会的な被害

 今年の6月下旬、危険ドラッグがらみの衝撃的な事件がおきた。危険ドラッグを吸引した30代男性が東京・池袋の繁華街で車を暴走させ、7人をひき、うち1人を死亡させた事件だ。

 その他にも東京・北区や名古屋市、千葉でも吸引者による車の暴走事故・事件が多数起こっている。

 警察庁によると、危険ドラッグ関連の摘発数としては、今年既に過去最多となっている。今年上半期の「危険ドラッグ」がらみの事件は128件で145人摘発され、前年同期の77事件・79人と比較すると、件数としては1・5倍、人数としては1・2倍も増加している。さらに、危険ドラッグが原因で死亡したとみられる人は今年だけで24人、2012年以降で41人と言われてる。

 厚生労働省と警察庁は、相次ぐ事件・事故を受けて、それまで「脱法ハーブ」「脱法ドラッグ」と呼ばれていた物質を、「脱法」という響きやイメージがその蔓延(まんえん)を助長させているという懸念から、「危険ハーブ」「危険ドラッグ」と呼称を改めるように発表した。

 さらに、現在薬事法に基づく指定薬物は約1400種類もある。今年4月からは、薬事法改正により、それまでの販売・製造等の禁止に加え、指定薬物の所持・使用等も禁止され、違反すると3年以下の懲役または300万円以下の罰金という罰則もついた。

 それでも、事件・事故がなくならない。そして、繁華街でもインターネットを見ても、販売サイトが劇的には減っていない現状がある。なぜだろうか?  これは、規制の問題もあるが、需要、つまり使用者が減らないから営業する側がなくならないとも言える。販売側は、買い続ける人がいればもうかるビジネスを続ける。ではなぜ需要が減らないのだろうか。また、どうしたら減らせるのだろうか。

 私は、答えは「教育」にあると考える。

 薬物は個人の人生のみならず、家族や地域、社会全体を破壊する。前述の池袋事件のように、全くの無関係な市民を巻き込み、死に至らせることもある。「自分の体なんだから自分の勝手」「他の人に迷惑かけていない」という意見は全くの検討違いであり、薬物の影響下にある者がもたらす社会的な害は、計り知れない。薬物に一度でも手を出す前に、薬物の真実を知らせ、自己決断で「薬物にNO!」と言えるための教育・啓発が今ほど重要な時はないだろう。

誰もが関係する可能性

 日本薬物対策協会は、2008年から本格的に教育分野において活動を開始し、これまで5万人以上の子供たちや教育者、保護者に対して、学校や教育関係機関などで講演を行ってきた。講演前には「危険ハーブの使用は個人の問題で判断は個人の自由」と答えていた子どもたちは、講演の後には劇的に減少する。

 学校講演のみならず、学校を離れてしまった子どもたちに対しても、また20代30代の若年層や、保護者となる中高年に対しても、「薬物の真実」を伝え続ける必要性がある。

 あらゆる世代にとって、もはや「薬物は自分に関係ない」とは全く言い切れない状況になっている。まずは、家庭から、学校から、地域から、薬物の真実について常に伝え続けることが大切だ。

 薬物への一人一人の意識が変わり、日本全体で「薬物にNO! 生きることにYES!」という気風が高まれば、薬物のない(Drug-Free)日本に大きく一歩近づくと信じている。