ASEANフォーラムの教訓 外交力は軍事力に経済力
日本の提案を阻む中国
アジア太平洋地域の安全保障問題を討議する「ASEAN地域フォーラム」(ARF。ミャンマーのネピドー。8月10日)にASEAN10カ国と日・中・米・露・韓・北朝鮮・インド・豪州・EU・カナダその他全27カ国・地域が参加。前日の外相会議で岸田外相は集団的自衛権は日本の安保政策に必須と説明し複数国が支持した。自国の安保にも“強い日本”の協力を期待する諸国の本音は支持だが、“中国への遠慮”で支持を控えた国が多かった。
中国は21世紀以降、経済・軍事的覇権国として台頭し、世界各地域に経済進出中だが、東シナ海と南シナ海での強引な行動は、「外交力は軍事力」(ビスマルク独逸宰相の名言)の典型的例である。対日態度も90年代までの「経済大国日本熱烈歓迎」(日本の経済援助を期待)から次第に威圧的化し、尖閣諸島を中国領と主張しての頻繁な領海侵犯は既に周知だが、今年、中国は東シナ海に一方的に「防空識別圏」を設定。日米欧とアジア諸国が抗議中だが中国は応じない。
また、中国はベトナム・フィリピンと領有権を争う南シナ海で、一方的に石油掘削活動、無人島の飛行場化、暗礁埋め立て基地化、西沙諸島と環礁に灯台建設(予定)を実施。ASEAN地域フォーラムでは、南シナ海ほぼ全域を自国領と主張して自国領海化を進める中国にフィリピンとべトナムが米国の支援で提案した中国の一方的行動の「凍結案」は採択されず、共同声明は「深刻な懸念」の表現に留まった。
日本が提案した尖閣問題も共同声明から削除された。何(いず)れも強大な中国への遠慮である。確かに、軍事費(2013年)の比較では、ベトナムもフィリピンも中国(米国に次ぎ世界2位)の各1・8%に過ぎず、ASEAN10カ国合計でも中国の20%に過ぎない。日本と韓国を加えても64%である(勿論(もちろん)、軍事力は陸海空の諸装備・兵員の数と質の総合的評価が必要だが字数の関係で軍事費だけでみた)。軍事力の決定打、核弾頭推定数は中国が250発で北朝鮮は10発だがASEAN・日・韓はゼロである。
結局、ASEAN・日・韓の安全保障は米国(中国の3・4倍の軍事費、核弾頭7700発)の援護とインド(同中国の25%、同90~110発)及び豪州・ニュージーランド(同13・7%)との軍事同盟の強化が不可欠な軍事衝突抑止力と思う。
抑止力無き平和はない
今回のARFは中国の戦略勝ちと思う。中国は1人当たりGDP(2013年IMF推計)は世界82位で、上位10%と下位10%の所得格差は17・7倍(2009年)と世界トップ級の格差大国だが、軍事費と経済規模では米国に次ぐ世界2位の力と資金力により、ARFでは中国が最大出資国となる「アジアインフラ投資銀行」(AIIB・今秋以降に設立予定。資本金500億㌦以上)の構想を公開し、多額の援助を期待する諸国を抱き込み中国の“暴挙”凍結案を押さえ、尖閣問題も削除させた。正に「外交力は軍事・経済力」である。AIIBは、日本が最大出資国で日本人が歴代総裁の「アジア開発銀行」(ADB)に対抗し、アジア諸国を中国人総裁のAIIB依存に分断する狙いが明白である。
AFRで北朝鮮は「自衛のために核武装が必要」と主張したが、反駁(はんばく)抗議は無かった由。これは核装備は戦争無き平和と安全保障の抑止力となり、抑止力無き平和の祈念だけでは平和実現は無理という北朝鮮からの教訓かもしれない。(本稿のデータ検索は世界平和教授アカデミー国際部長馬淵和之氏のご協力を得た)