自然災害は日本人の運命

「備災力」と災害への覚悟

人間の力では防げない

 戦争と自然災害とを比べた場合、戦争は人間が引き起こす行為であり、お互いに理性が働けば、戦争を防ぐことができる。しかし地震、津波、台風、火山の噴火、ゲリラ豪雨などの自然災害(自然現象)は、人間の力では絶対に防ぐことができない 。

 3年前の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では、1万8000人を超える死者・行方不明者を出した。現在も、復興庁の発表によれば、約26万7000人が避難し、約9万7000人が仮設住宅に暮らしている 。

 日本は地震国、火山国であり、日本人は昔から大地の急激な変動がもたらす脅威にさらされてきた。マグニチュード9・0を記録した東北地方太平洋沖地震は、日本の観測史上最大規模であるだけでなく、世界的に見ても超弩(ど)級の巨大地震であった 。

 地球物理学者の寺田寅彦氏が「災害は忘れたころにやってくる」という有名な警句を残しているが、日本に限定すれば、「災害は忘れる前にやってくる」の方がより正確な表現と言える 。

 災害列島・日本に生まれたからには、日本人は自然災害と向き合う運命にある。人間の力では自然災害を未然に防ぐことが難しいならば、自然災害に対する備えを整備しておかなければならない。しかし、いまだに日本には、緊急事態法も整備されていないのが現状だ。次に来る自然災害に対する「備災力」を、国家、そして日本人一人ひとりが持たなければならないのである 。

 舛添要一東京都知事は、当選後のインタビューで、スイス政府が各家庭に配布している冊子『民間防衛』をモデルに、防災対策をまとめたパンフレットの作成・配布を表明しているが、このような取り組みは「備災力」の一翼を担うものだろう 。

 災害が発生すると、必ず出動するのが自衛隊である。今年2月に関東甲信越と東北地方を襲った記録的な大雪は、至る所で大きな被害をもたらした。自衛隊は山梨、群馬、福島、長野、静岡、東京、宮城、埼玉の1都7県の知事からの災害派遣要請を受け、陸上自衛隊東部方面隊を中心に延べ人員約5060人が派遣された 。

 雪害に対する災害派遣としては、昭和55(1980)年12月から翌年3月にかけて北海道から近畿まで日本海側地域で大きな被害となった「56豪雪」以降、最大の災害派遣となった。

限界がある自衛隊

 そもそも災害派遣とは、自衛隊法第83条に定められている自衛隊の行動である。東日本大震災での自衛隊の活躍は、記憶に新しいところだろう。この時は日本全国の陸海空自衛隊部隊・機関から延べ約1060万人が派遣され、史上最大の災害派遣となった。予備自衛官も初めて招集され、陸海空自衛隊合わせて、延べ2648人が出動した。米軍との間の通訳、被災者の生活支援、瓦礫除去、道路復旧、物資輸送、行方不明者の捜索活動等の任務に当たった 。

 自衛隊は陸海空合わせて約23万人。予備自衛官を含めても約27万人しかいない。将来、首都直下地震や太平洋ベルト地帯が被災地となる南海トラフ巨大地震の発生が予想されている 。

 特に南海トラフ巨大地震が発生した場合には、被災範囲が広範囲に及ぶため、現在の自衛隊の人員では到底対応できないことは明らかだ 。

 自衛隊の人員不足は、いまに始まったわけではない。自衛隊発足の時からの慢性的な問題でありながら放置され続けてきた。自衛隊はスーパーマンではないのだから、いかなる自然災害にも対応できる自助・共助・公助の体制の構築が急がれている。