令和日本 日本の存続は可能なのか

世日クラブ講演要旨

平成で失われた日本の強み

文芸評論家 小川 榮太郎氏

 文芸評論家の小川榮太郎氏は22日、世界日報の読者でつくる世日クラブ(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)で「令和日本 日本の存続は可能なのか」と題して講演し、「平成の間に日本の強み、勝てる要素が失われてしまった」と強調した。以下は講演要旨。

日本を支えた「土着政治」
地縁・血縁排除では成功見込めず

 日本は平成30年間を通じて、国を挙げて「負ける事」を頑張ってきた。努めて自分の国の強み、勝てる要素を全部捨ててきた。令和という時代に、私たちが存続できるのかどうか、正直に言うと現状では滅びる。日本は確実に終わると100%断言できる。そのくらい厳しいところに追い込まれているという自覚があまりにも日本人にない。

小川榮太郎氏

 おがわ・えいたろう 昭和42(1967)年生まれ。大阪大学文学部卒、埼玉大学大学院修了。第18回正論新風賞を受賞。主な著書に『約束の日―安倍晋三試論』(幻冬舎)、『「永遠の0」と日本人』(幻冬舎新書)、『最後の勝機』(PHP)、『一気に読める「戦争」の昭和史』(ベストセラーズ)、『小林秀雄の後の二十一章』(幻冬舎)、『平成記』(青林堂)。

 最近韓国の話題がよく取り上げられるが、雑誌などを読んで溜飲(りゅういん)を下げることは構わないが、民度も国力も日本とは比較にならない韓国を敵だなどと思わないでほしい。私たちの本当の敵は日本人そのものの油断と中華大帝国、そしてアメリカだ。しかし中国を完全に対峙した敵と見なし続けることは不可能だ。国力差が平均しても5倍あり、優秀な人間と富裕層が1000万人を超えており、そこそこの経済力を持った人間が1億人いる。こういう隣国を、今の日本のような甘やかされてきた国民をどう鍛え直して、共存してゆける国にしてゆくかが、令和日本最大の課題だ。

 安倍総理が今していることはあくまで平成でひどい傷を負った日本の緊急手術のようなものだ。平成をしっかり見直し、根本から国を立て直す方策を考えないと、安倍総理の退陣後、令和は平成以上の大変な「失われた」状況に陥っていくことは確実だ。それをどう防ぐかということが、今心ある日本人の一番の課題だ。

 平成の前半、政治改革が行われた。中選挙区が小選挙区になり、企業献金が廃止され、政党助成金の交付が始まった。実はこの3点セットの政治改革こそが日本の政治を根本からダメにした。そしてもう一つは郵政改革。これで郵便局の地方組織は完全に息の根を止められた。

 郵便局長会のような土俗的な力があり、地方の中小企業からの企業献金があって、自民党の有力地方議員がいて、そして国会議員がボスとして霞が関に地方の声を届け、その地方に恩恵がいくという「ウィン・ウィン」の仕組みが「利権だ」と言われ、「こういう利権を壊して透明な政治にしよう」となっていった。その結果、政治家が金を集められなくなった。地方議員は、金を集められない国会議員の部下にはならない。結局地元の企業と何代も付き合いのある政治家以外は国会議員本人が選挙区にへばりついている。

 このように、日本政治が持っている「土着」の強さが平成30年間に壊されてしまった。この「土着」の時に日本は世界一の経済力だった。

 結果、霞が関の力が強くなり、今の若い保守派の政治家は良識や良心はあるが、金と力が無く、陳情も届かない。

 霞が関には秀才が集まって来るが、国家ビジョンを持っているわけではない。彼らの多くは東京大学などの出身で、反戦・非武装などの左翼的なイデオロギーを持っている。今までは土俗的な自民党の地方ネットワークなどが、地方の声や日本人の常識というものを国の政治に入れていき、霞が関の暴走を防いできた。残念ながらそれが大きく棄損(きそん)されたのが平成だ。

 もう一つの平成の大きな失敗は経済だ。平成元年の終わりに株価と地価が高騰しバブルと言われていた。それが翌年、株価が大きく崩れた。ところが日銀・大蔵省は金融政策でこれを全く救おうとしなかった。

 1980年代までは実際に株式会社に投資をして、その会社自体が実体として成長することを株主が支えていくという資本主義の古典的な原理が極端に壊れてはいなかった。ところがその後急激に、資本主義は、株価だけ短期間で10倍20倍になってしまうような金融という名のギャンブルになってしまった。ところが、日本は平成年間、ギャンブル化した世界経済で勝者になる政策を明確に定めた政権が安倍政権以外一つもなかった。これが日本経済を大変遅らせてきた。

 この金融経済への乗り遅れと並び、実体経済における産業空洞化も深刻だ。

 今チャイナリスクが大きな問題になっている。中国の外交的・軍事的なものだけではなく、産業空洞化に絡んだ技術流出の問題がある。これは中国が買収やスパイをして盗んだものだけではない。日本全国には素晴らしい技術を持った人材や中小企業がたくさんある。

 ところが今の日本社会では、新しい技術を大企業が採用しない。国会議員の顔利きが無くなり、優れた技術を持った中小企業などを霞が関は相手にしない。すると彼らはどこへ行くか。中国だ。中国は物が良ければ言い値で買ってくれる。

 今の中国人の前向きのエネルギーはすごい。一人一人が世界一の国になろうと燃えている。彼らは基本的に自分と自分の一族を大事にしていて、日本よりもはるかに「同族意識」が強い。日本は「土着」を30年かけて壊してきたが、中国はあの頃の日本と同じ、地縁・血縁意識で勝っている。世界どこでもそうだが、地縁・血縁を捨てて成功する国はない。日本はイノベーションをすくい取る霞が関、大企業の対応力がない上、アトム化して、集団で勝ってゆこうというエネルギーが希薄になった。これでどうやって勝てるというのか。

 最後に平成の教訓として「文化の崩壊」がある。日本という国は、明治維新後たった20年で自主憲法を制定し、議院内閣制を外国の力を借りず、自分たちだけの力でつくった。そして戦時中も敗戦後も、この国は一度も議会を停止したことがない。これがどれだけ桁違いにすごいかを残念ながら戦後の教育は教えていない。

 なぜこれだけ高度なことが20年でできたか。それは20年ではないからだ。1000年、2000年という縄文からの、そして皇室伝統以来の、長い知恵がわが国の国力だった。京都大学の中西輝政先生は、イギリスが世界帝国になった要素の中に、軍事力や経済力以上にモラルの力があったからだと指摘している。大国であるためにはモラルや知性が非常に大切だ。これはかつてのローマもそうだった。

 現代の多くの人々は文化をアクセサリーのように思っている。特に保守がそれではだめだ。保守の父と呼ばれているエドマンド・バークは文学者であり、日本の戦後の保守論壇を牽引(けんいん)した人たちも全員偉大な文学者だったように、保守と文学は切り離せない関係にある。

 令和時代になって日本が本当に存続可能な国になっていくためには、政策もさることながら、一人一人の文学に対する熱意やネットワークの形成が不可欠だ。