世界と日本の水産業から見た豊洲移転問題
入荷量減る中央卸売市場
東京財団上席研究員 小松正之氏
世界日報の読者でつくる世日クラブ(会長=近藤讓良・近藤プランニングス代表取締役)の定期講演会が4月18日、都内で開かれ、元水産庁漁業交渉官で東京財団上席研究員の小松正之氏が「世界と日本の水産業からみた豊洲移転問題」をテーマに講演した。小松氏は、中央卸売市場を経由しない市場外の魚の流通が、現在50%にまで達したとし、「現在の豊洲移転論議には本質論が欠落している」と指摘。「中央卸売市場がなぜ必要なのかの根本的な議論を、卸、仲卸業者の方から積極的にしていくべきだ」と訴えた。
(以下は講演要旨)
本質論欠く移転論議/豊洲、安全対策と合理化を
資源管理遅れる水産業/養殖業減は先進国中日本のみ
豊洲市場に関する新聞やテレビの報道は、なぜ中央卸売市場が必要か、またどのような市場が必要かの本質論が出てきていない。全ての当事者が分かっていないからだと私は考えている。

こまつ・まさゆき 昭和28年岩手県生まれ。米イェール大学経営学大学院修了。農学博士(東京大学)。52年水産庁に入庁し、漁業交渉官、資源管理部参事官、漁業資源課課長などを歴任。国際捕鯨交渉などで活躍し、平成17年米ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれる。政策研究大学院大学教授等を経て、東京財団上席研究員。著書に『国際マグロ裁判』、『海は誰のものか』、『「豊洲市場」これからの問題点』など。
不要論に対し、「衛生的で近代化した市場が必要」と卸、仲卸業者の人から言っていかなければならない。自分たちが本当に必要だと思わなければ、周りの人もいらないと思うだろう。
日本は1974年から88年まで、1000万トンの漁獲量だった。ピーク時は、84年の1284万トンあった。最近は461万トンしかない。世界の漁業で、1990年頃から伸びているのはすべて養殖だ。世界の天然の漁獲量は、90年から30年間、横ばいか減少で9000万トンしかない。
昨年は北海道が初めて漁獲量100万トンを割った。長い間150万トンの漁獲量があったが、爆弾低気圧でホタテが壊滅的に少なくなり、またサケが沿岸生態系の破壊と温暖化で全然戻ってこなくなった。
陸前高田の気仙川でも、ピークで9万尾戻ってきたサケが3万尾しか戻ってこない。海水温の上昇で、栄養塩が海の底から上がってくる量が少なくなっていること。山に針葉樹が増えたことと護岸工事で自然の破壊が過ぎた。昭和の20~40年代まで、早く伸びる針葉樹をたくさん植え、輸入の自由化で伐採しなくなった。
針葉樹がたくさんあると、葉が細くて腐りにくい、栄養を蓄えない。護岸は生命のゆりかごの藻場と干潟を破壊した。
遠洋漁業は、現在カツオとマグロしか獲っていない。中央卸売市場には生鮮向けの魚が入ってくる。イワシやサバ、エビ類は136万トン獲れてたが、100万トンまで減った。養殖も100万トン前後で、30%減った。
世界の養殖の漁獲量は上がっており、先進国で養殖業が減ってるのは日本だけ。新規参入と技術の移転を阻害したことが原因だ。
日本独特の旧態の制度で、漁業権というものがある。この制度は、漁業協同組合に属さないと養殖が営めない。いけす2、3個で、一つ10トンのブリ、タイを養殖する。ノルウェーはいけす一つで1000トンで、1万トンの養殖があり、日本は太刀打ちできない。
ノルウェーは自由に参加でき、技術開発して秋にしか帰ってこないサケの養殖が一年中できるようになった。マーケットがサケを欲していれば、マーケットに合わせて技術開発する。マーケットや生物、科学技術に詳しい人が入って来て、養殖産業が成長していく。
日本の漁業者数は減っているが、それでも組合の人間は空いた漁場に新しい漁業者を入れない。
震災後、日本の漁業を元気にするため新しい人を入れるべきだと意見を言ったが、被災地の漁業者に「震災だけでも困っていて、若い人と競争するのなんて嫌だ。新技術と制度を入れるのも大変だから嫌だ」と言われた。日本の政治家も身近な票になる年寄りの漁業者の方を大切にする。
その人たちの意見を聞いて、補助金をやる。外国は、技術開発をする気のある人にイノベーション資金をやる。日本の場合の損失補填(ほてん)補助金は問題の先送りだ。豊洲も一緒で、豊洲に行かないから、その分の損失を補助金としてあげる。これは無駄だし、経営の悪い人を温存する。
日本は資源管理ができておらず、資源量を把握していない。海外では科学的な資源の評価を実施し、資源の維持、回復する目標を設定し、客観的な目標の数値である生物学的許容漁獲水準(ABC)を計算。そしてABCを上回らない総漁獲可能量(TAC)を設定している。
さらに、これを漁業者の漁獲量実績などに基づき、個別の漁業者に配分して、個々の漁業者が漁獲する個別漁獲割当制(IQ)を採用している。
この他、漁業者の過剰な投資や無駄なコスト投入を避けるために譲渡可能性を与え、漁獲枠の売買や移譲が可能な制度は個別譲渡性漁獲割当制(ITQ)というもの。日本もこのように一人一人の漁獲量を決めるべきだ。しかし、漁業者動かない。損を出しても補助金を貰(もら)えたら新しいことはやらないだろう。
日本は漁業の問題の本質から目をそらしている。長い間、右肩上がりで来ていた歴史がある。日本がだめなら外国から買えた。一時は370万トンの水産物を輸入していた。今は250万トンを割っている。
新潟でIQモデル事業を国内で初めて導入した。新潟のアカエビの漁獲量は600万円の黒字だ
豊洲は合理化しなければいけない。年々市場の経由率が低下し、水産物の2匹に1匹は市場経由してない。市場は役割を果たしているのかを、卸と仲卸の人間は考えるべきだ。資源を回復し、中央市場に物が入ってくるシステムをつくらなければ、本質的な解決にならない。
築地の安全性には問題がある。ネズミは都庁の試算では500匹は極めて過小だ、豊洲は施設と用地が課題で経営収支の悪化要因だ。
今後入荷量も減り売り上げも減るのだから5街区青果棟や中央管理棟、冷蔵庫の一部を壊し、7街区水産卸棟と仲卸は減少するので第6街区仲卸棟もくっつけて、6街区に管理棟を入れる。
千客万来施設も市場としては不要なのは明らかだ。これで運営経費は相当削減される。
このままだと世界中の水産物を扱う人たちから相手にされなくなる。それなら豊洲で安全性にベストを尽し、IT化して透明性を向上させるなど、建設的なところにお金を使い、かつ不要なものは削減することだ。当面は豊洲移転しかない。