東京のイスラム教モスク 信仰と感染防止の両立に腐心
新型コロナウイルスの感染拡大は、宗教界にも大きな影響を与えた。東京都渋谷区のイスラム教モスク「東京ジャーミイ」でも、数百人が集まる金曜合同礼拝(集団礼拝)を自粛し、6月から再開した。これに対し近隣住民の誤解による批判や嫌がらせが起きているが、信徒たちは日々の信仰生活と感染防止対策の両立に取り組んでいる。
(石井孝秀)
礼拝前に検温、マスク着用
誤解から嫌がらせも
「これまで以上に清潔さを保つことに注意を払うようにしましょう」
東京ジャーミイのイマーム(イスラム教指導者)は11日、集団礼拝に集まった参加者に感染予防の重要性と徹底を訴えた。預言者ムハンマドの「清潔さは信仰の半分にあたる」という言葉を引用し、「定められたルールを守るのを怠ったりすることは、アッラーの御前においては望ましくないふるまいであることを忘れないように」と強調する。
東京ジャーミイでは日本政府の進めるコロナ対策に対応し、3月11日から集団礼拝を約3カ月間停止した。緊急事態宣言の解除を受け、集団礼拝は6月5日に再開が発表された。ところが、広報担当の下山茂さんによると、集団礼拝の実施に対して近所の一部から「なんで集団で集まるんだ」というクレームの電話が寄せられたこともあった。
下山さんは苦情に対し、「ルールを作ってしっかり守り、コロナが早く終息するよう皆で切実に祈っています」と対応したというが、嫌がらせは後を絶たない。
ある時は集団礼拝後、モスクから出てきた信徒らに向かい、自転車に乗った人が擦れ違いざまに「だからイスラム教はダメなんだ」と吐き捨てていくこともあった。
下山さんは「電話をした方も、韓国の宗教団体などでの集団感染を知って心配だったのだと思う。イスラム教ではやるべきことを全てやり、最後は神に委ねる『タワックル』という考え方がある。だからこそ、私たちがどれだけ全力でコロナに立ち向かったのかが問われる」と、感染防止に全力を尽くすことを強調した。
東京ジャーミイでは感染防止対策として、入る場所を1カ所に絞って手の消毒や検温チェックを実施、マスクの着用を心掛けている。もともとイスラム教では礼拝前に手足などを洗って清める「ウドゥ」を行っており、モスクにも洗い場が併設されているが、礼拝時には各自自宅で済ませてくることを求めている。
集団礼拝以外の1日5回の礼拝だと、毎回集まるのは10人ほどだ。しかし、それでも握手の禁止や近くに並ぶほかの礼拝参加者と距離を保つなど、密を防ぐ取り組みは徹底されている。
イマームのチナル・ムハンメット・リファットさんは「大切な命を守るため、コロナ対策を重視している。イスラムにも決まり事はあるが、特殊な状態が起きた場合はそれに合わせなければ」と語った。