自民OBが「赤旗」「民主」に 安倍首相批判や脱原発など
野党の発信力不足
国会勢力から自民党の他は弱いという一強他弱、または野党が分裂して多くなり弱くなったという一強多弱という形容は、いずれも野党の存在感の弱まりを示す。その穴埋めに一役買っているのも自民党(OB)という珍現象が、野党機関紙上にある。
共産党の機関紙「しんぶん赤旗」2月17日付1面に前日放送されたTBS「時事放談」の記事が載った。「憲法解釈変更の安倍首相発言 『立憲国として考えられぬ』 古賀・自民元幹事長が批判」の見出しだ。番組に出演した古賀誠元幹事長の衆院予算委員会での安倍晋三首相の答弁についての発言を拾った記事で、「古賀氏は『普通だったら予算委員会が止まるほどの大騒動の話』と驚きを示しました」と書く。
最近、共産党は「革新共闘」から踏み出し「一点共闘」の理屈で相手が保守でも手を組むことを否定しなくなったが、これも左翼勢力の衰えに外ならない。古賀氏の発言からとった見出しを「護憲論者として考えられぬ」に置き換えたら分かりやすいだろう。
戦後長らくは憲法改正や解釈変更を否定する「護憲」世論が支配的だった。「護憲」野党は政府・自民党側の答弁をめぐり国会をたびたび空転させた。その当の野党が、そうならないことに驚く自民党OBの発言をテレビで見て相槌を打ち、機関紙に載せるのはある意味で滑稽なことだ。
ちなみに番組で古賀氏と出演した野中広務元自民党幹事長を、同紙日曜版2013年11月24日付は特定秘密保護法批判のため取り上げている。
次は小泉純一郎元首相。昨年、反原発に目覚めて社民党機関紙「社会新報」(13年11月6日号)に続き、今度は民主党の機関紙「プレス民主」2月7日号最終面に写真付きで登場した。が、東京都知事選で細川護煕元首相と反原発タッグを組んだからと思いきや、細川氏や知事選に言及がない何とも不思議な紙面であった。
リードの触れ込みは「東京・吉祥寺駅前で1月29日に行われた街頭演説会から、作家で天台宗尼僧の瀬戸内寂聴さん、小泉純一郎元総理のメッセージを紹介する」と簡素なもので、何の演説会か書かれていない。見出しは「オリンピックまでに東京を変える」だが、小泉氏の「メッセージ」は脱原発だけ。瀬戸内氏のものは人生・仏教から政治家のあるべき論を説く内容だ。つまり、見出しと記事が一致しないのだ。
同じ紙面に「あなたの声に党幹部が答える」というコーナーがあるが、「脱原発で元総理らの動きに、私は妻と『日本も捨てたもんじゃない。本物の政治家がいる』と話しました…」との投稿がある。「元総理」の名前はなく、都知事選でなく「動き」とする。大畠章宏幹事長の「答」も「元総理の活動には東京都連がこれを組織的勝手連として支援することを決定しました」と、ここでも「元総理」の名前を書かず、都知事選を「活動」と言い換えている。
これも民主党の最大スポンサーの労組連合が電力総連や電機連合など原発推進派を抱えて、反原発の細川元首相を支持せず舛添要一氏を応援したためか、相変わらず民主党は内部不揃(ぞろ)いではっきりしない。発信力を自民党OBの小泉氏に頼った形である。
解説室長 窪田 伸雄