「縦割り打破」に挑む菅首相
「自由民主」党総裁選挙、無党派層に敏感な政治感覚
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自民党両院議員総会で、壇上に上がる(左から)岸田文雄政調会長、新総裁の菅義偉官房長官、石破茂元幹事長=14日午後、東京都港区(時事)
自民党の機関紙「自由民主」は総裁選、菅義偉新総裁選出の大きな節目を伝えた。総裁選告示日の8日に発行された同紙9月15日号は、「3氏が立候補」と顔写真付き青地白抜き文字の縦書きで候補者名を大書。右から衆院議員の岸田文雄、菅義偉、石破茂の3氏が並んだ。菅氏が真ん中で党内の大勢を読んだかの構成だが、紙面片隅に小さく「左から届け出順」とある。その届け出順に2面石破氏、3面菅氏、4面岸田氏の所見が載った。
このうち勝利した菅氏の所見は、新型コロナウイルス、想定外の自然災害など難問山積の中、「政治の空白」は許されず、安倍総裁の取り組みを継承し前進を図ると強調。スローガンは「自助・共助・公助、そして絆/地方から活力あふれる日本に!」だ。
横書きで重要政策は上から順に、「国難の新型コロナ危機を克服」「縦割り打破なくして日本再生なし」「雇用を確保暮らしを守る」「活力ある地方をつくる」「少子化に対処し安心の社会保障を」「国益を守る外交・危機管理」となっている。
列挙の順番に強調度が表れるものだが、新型コロナは今年降って湧いた非常事態。その前から官邸の官房長官として長く必要を感じ、意欲を燃やす政策は2番目の縦割り打破であり規制改革であろう。
首相に就任した菅氏は記者会見で早速、「規制改革を政権のど真ん中に置く」と述べ、その嚆矢(こうし)がデジタル庁新設となる見込みだ。行政手続き、仕事や教育などの遠隔対処を可能とする新型コロナ対策もあり、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進をどのように「雇用確保」、「活力ある地方」にもつなげていくか注目される。
また新内閣発足早々、衆院解散・総選挙のシナリオも取り沙汰されている。菅首相は、野党自民党時代の同紙に市議出身で無党派層に敏感な政治感覚を買われて登場したことがある。民主党・野田佳彦内閣当時の同紙2012年7月31日、8月7日、14日号の3回、党組織運動本部長として「激戦に勝利する」と題する選挙特集を連載した。
「無党派層の目はごまかせません。“言うだけ”“形だけ”が見えてきた時点で信頼を失います」「訴える政策が日本の将来に必要であるなら、どんなに批判されてもブレてはいけません。信頼を失ってしまいます。そのことは迷走を続ける民主党政権をみればよく理解できると思います」
このように同連載の中で語っており、今度は首相として内閣を率いての有言実行、縦割り打破の内政改革が見ものだが、「縦割り110番」開設など改革のスピードがありそうだ。携帯料金の値下げの主張は株価や市場に影響している。
また、同年12月に結果的に自民党は大勝して政権復帰したが、同年夏の時点で菅氏は「次期総選挙はわが党にとって厳しい戦いとなります。前回の総選挙でわが党に『NO』を突きつけた無党派層がそう簡単にわが党に投票するとは思えません」と述べており、慎重で抜け目なく、用心深い。
安倍晋三前首相は総裁としての同選挙から衆参の国政選挙で6連勝を果たし、わが国の史上最長政権を達成した。官房長官だった菅氏を含め重要閣僚を代えず、国際的にも知名度が通る内閣を築いた功績は大きい。長期政権で一人官房長官を務め上げたことが、菅首相誕生の最大要因であることは疑いない。
が、野党時代に選挙の強者として菅氏が同紙に選挙特集で指南した頃の原点に立ち返ることが、一強・最長政権後の引き締めに必要かもしれない。
編集委員 窪田 伸雄