「頬被り」続け反省なし 「慰安婦」、「朝日」の“誤報”
「日韓離間」に利用される
安倍晋三首相の靖国参拝や歴史認識などをめぐって、対日批判を強める韓国、中国に対する反発から、保守派の月刊誌を中心に両国批判の論考が並んでいる。中には、過剰反応とも思える扇情的な反論もあるが、5月号では「反日」の動きが強まるきっかけとなった国内要因の検証に重点を置いた論考が増えたのが目立つ。
「正論」と「WiLL」は、それぞれ「慰安婦・歴史戦争、我らの反撃」と「河野談話への怒りの鉄槌!」と銘打った大特集を組んだ。また、「Voice」も「従軍慰安婦」問題に関した論考を掲載している。
見出しだけを見ると、週刊誌並みの“煽(あお)り”の臭いがするが、共通点を探っていくと、問題の根が国内にあることが明らかになり、興味深い。共通するのは、慰安婦問題が日韓の外交問題に発展するきっかけとなった“誤報”を行った朝日新聞の責任、そして客観的な裏付けも取らずに慰安婦募集の強制性を認めた「河野談話」を発表した政治責任を追及している点だ。
たとえば、東京基督教大学教授の西岡力は、「正論」で行った衆議院議員山田宏との対談「亡国の河野談話と朝日新聞大誤報、克服の展望」の中で、次のように指摘する。
「一九九一年の八月、『自分は金銭で売られた』と韓国で記者会見したおばあさんを『挺身隊として戦場に連行された』と朝日新聞の植村隆記者が書いた」 朝日の誤報は、こればかりではない。慰安婦を強制連行したとする元軍人の嘘(うそ)の証言も報じている。このため、わが国では「慰安婦問題は朝日の誤報で始まった虚構」(西岡)との認識が広まっているが、その朝日新聞は誤報の経緯を検証したり、正式に認めて謝罪するわけでもなく「頬被り」(同)したままだ。
また、1996年に国連の人権委員会が発表した「クマラスワミ報告書」が慰安婦を「性奴隷」と表現したのは、日本人弁護士の働き掛けがあったからだが、こうした背景についても西岡は鋭い分析を行っている。つまり、当時は冷戦直後で、「左翼運動に携わった人たちは、次々と日本の過去の批判にシフト」して良識派を演じていったのだ。朝日新聞もその中にあったというのである。
その一方で、韓国社会では左傾化が進み、「日本と韓国両方に『日韓離間』を目論んでいる人たちがいて、慰安婦問題もそれに利用されている」(西岡=「WiLL」)。
ジャーナリストの山田順も「中韓の『対日包囲網』には冷静に対処せよ」(「Voice」)の中で、朝日新聞が「突如『靖国参拝』はおかしい」との論調を張ったことで、中国の抗議がはじまり、従軍慰安婦問題も同じで「一九九二年まで存在しなかった」と指摘している。
河野談話については、その元となった「元従軍慰安婦」への聞き取り調査の信憑(しんぴょう)性は当初から疑問の声があったが、とくに石原信雄元官房副長官が証言の裏付けは取っていない上に、「作成過程で(日韓の)意見の擦り合わせは行ったと推定される」と、国会で述べたことで、検証が不可避となった。
この問題では、上智大学名誉教授の渡部昇一との対談「慰安婦攻撃の背後に中国あり」(「Voice」)で述べた拓殖大学教授の呉善花の指摘が日本人と韓国人、中国人との国民性の違いを浮き彫りにしている。
「日本人はやましいところがなかったとしても『揉め事は面倒なので、とりあえず謝れば、相手は水に流してくれるにちがいない』と考えるわけです」。ところが、「韓国人や中国人にとって、自分の落ち度を認めることは『そのぶん賠償をしなければならない』という意味です」。韓国出身の識者の指摘だから、とりわけ説得力がある。
左派の月刊誌「世界」はメディア批評で、神保太郎が「旧日本軍従軍慰安婦の被害女性たちに対する謝罪や名誉回復は、歴史認識の核心部分である」として、河野談話の検証作業を進めることを決めた安倍政権を批判した。
その「世界」は注目の人、元衆議院議長の河野洋平にインタビューしているが、集団的自衛権がテーマだったとは言え、河野談話に一言も触れていないのは不自然だ。「歴史認識の核心部分」であるとするなら、談話をめぐる現在の動きをどう見ているのか、河野に語らせるべきだったろう。
編集委員 森田 清策