子宮頸がんワクチン 「副作用」被害訴える大学生
「なぜ起きた」明らかに
子宮頸(けい)がんワクチンの副作用被害を訴え、提訴することを決めた埼玉県の大学生酒井七海さん(21)は、5年前にワクチンを接種した後、失神や右半身のしびれ、記憶障害などの症状が表れるようになった。歩行が困難なため、大学には車椅子で通う。「困っている人を助けたい」と弁護士を目指していたが、その夢も諦めざるを得なくなった。
酒井さんは高校1年だった2011年2月と3月にワクチン接種を受け、2回目の翌日、風呂上がりに突然失神した。得意だったピアノで指がもつれたり、階段で突然意識を失い転倒したりするようになり、「副作用では」と疑ったが、病院ではまともに取り合ってもらえなかった。
高3の秋以降はほとんど学校に行けず、その年の入試は断念。漢字を認識できないなどの症状が表れ、志望していた法学部進学は諦めた。今は周りのサポートを受けながら福祉政策を学んでいる。
厚生労働省が昨年行った追跡調査で「回復済み」とされ、調査対象にさえ入っていなかったことが、提訴を決意した理由の一つとなった。父親の秀郎さん(57)は「担当者には名前まで伝えていたのに、なぜ」と憤る。
七海さんは「私たちがワクチンを接種した時は、メリットやデメリットについて十分な情報がなかった。次の人がそうならないよう、どうして起きてしまったのかを明らかにしたい」と毅然(きぜん)とした口調で語った。
子宮頸(けい)がんワクチンをめぐる動き
2009年12月 英グラクソ・スミスクライン社製「サーバリックス」の国内販売開始
10年11月 接種への公費助成開始
11年8月 米MSD社製「ガーダシル」の国内販売開始
13年3月 全国被害者連絡会が設立
4月 小6~高1女子への定期接種の対象に
6月 積極的な接種勧奨を一時中止
14年1月 厚生労働省部会、症状を「心身の反応」とする見解
15年9月 厚労省、副作用報告があった接種者の1割が未回復との調査結果公表
16年1月 厚労省研究班が全国疫学調査を開始
3月 副作用訴える女性ら、国と製薬会社を提訴する方針表明
厚労省の調査、結論には時間
子宮頸(けい)がんワクチンの定期接種をめぐっては、副作用についての議論が続いており、一時中止となっている積極勧奨が再開されるめどは立っていない。
同ワクチンは、子宮頸がん全体の50~70%の原因となるヒトパピローマウイルスへの感染予防効果があるとされる。副作用の訴えが相次いだことを受け、厚生労働省の専門部会は2013年6月、定期接種化からわずか2カ月でワクチン接種の積極勧奨を一時中止し、医学的評価を議論。14年1月、副作用とされる症状を「心身の反応」とする見解で一致した。
厚労省は15年9月、副作用の疑いがある接種者1739人を追跡調査した結果、約1割の186人が未回復だったとする調査結果を報告した。同省の研究班は今年1月から、接種を受けたケースと受けていないケースで類似した症状が表れる確率を調べる全国疫学調査を始めたが、結論が出るにはまだ時間がかかる見通し。
「副作用」の立証ポイント
子宮頸(けい)がんワクチンによる「副作用」が、法廷で争われる見通しとなった。接種と副作用との因果関係を認めた科学的知見は無く、どの水準までの立証が求められるかが裁判のポイントとなりそうだ。
子宮頸がんワクチンを販売するメーカー2社によると、両社の製剤はいずれも約130カ国で承認されている。定期接種化した国も多い中、集団提訴に至れば「日本が初めてではないか」(厚生労働省幹部)という。
女性らが訴える症状は多岐にわたるが、ワクチンが原因となったことを示す研究結果は無い。日本で症状を訴える声が多い要因について、同省研究班は今月、特定の遺伝子を持つ人に影響が出やすい可能性を示唆する結果を発表した。ただ同省幹部は「サンプル数が少なく、データの偏りが排除できない」と指摘する。
世界保健機関(WHO)は昨年12月、安全面の問題は見つかっていないとした上で、「不十分な証拠に基づく政策決定は真の被害をもたらす」と接種勧奨を控える日本を名指しで批判する声明を出した。日本産科婦人科学会も勧奨再開を求めている。
放射線と疾病の因果関係が争点となった原爆症訴訟など、厳密な科学的証明まで求めず、「一般人が疑いを差し挟まない程度の証明ができれば良い」とした判例もある。弁護団には医療訴訟に精通したメンバーが名前を連ねており、WHOなど権威による「お墨付き」を前に、どこまで立証のハードルを下げられるかが注目される。
(時事)