石川県輪島市「漆再生プロジェクト」が始動
地元で植樹・採取の仕組み
輪島塗で知られる石川県輪島市で、漆の木を植樹し、その漆から採取した樹液で輪島塗を作り、その漆器を使ってもらおうという官民協働型の「輪島漆再生プロジェクト」が始まっている。原材料のほとんどが安価な中国産で占められている現状を克服し、地元産の漆を使うことで新たな需要を掘り起こそうという試みだ。(日下一彦)
安価な中国産の漆に対抗
先月中旬、輪島市で漆に関わる職人や漆器業界の関係者、大学の研究者などが集い、漆文化と漆産業の再興を目指して情報交換する「漆サミット2013 輪島」(主催・同実行委員会など)が開かれた。同サミットは今年で5回目、昨年は樹液の産地・岩手県二戸市浄法寺町で開かれ、それ以前は漆の研究プロジェクトに取り組んできた明治大学が会場だった。漆器産地での開催は今回が初めてとあって、参加者たちはディスカッションの合間に工房を見学したり、漆器造りなどを体験していた。
「輪島漆再生プロジェクト」は研究成果発表の一つとして、「輪島塗の下地に使用される珪藻土の秘密」「県工業試験場の漆関連研究」などとともに報告された。説明したのは同プロジェクト実行委員会事務局長の安嶋是晴助教(金沢大学経済学経営学系経済学類)で、これまでの事業内容や今後の計画などを説明した。
安嶋氏によると、輪島は漆の木が育ちやすい気候で、しかも漆器づくりに適した条件が整い、戦前までは地元産の漆が使われてきた。ところが、戦後、安価な中国産漆の輸入が急増し、今では輪島塗で使用する漆のほとんどは中国産が占めている。日本産に比べて10分の1の価格で入手出来るからだ。
国内産の需要が減るにつれ、漆の木から漆を掻(か)く「漆掻き職人」も激減し、現在は1人だけとなり、漆掻き技術の伝承も危ぶまれるまでになっている。こうした現状を憂い、もう一度日本産漆の良さを見直そうと、輪島市の漆芸家・若宮隆志さんを代表に、輪島漆器青年会の芝山佳徳会長、そして安嶋さんの3人が中心になって、2年前に「輪島漆再生プロジェクト実行委員会」を立ち上げた。
輪島に漆を植え、その漆で輪島塗をつくり、出来た漆器を使ってもらう仕組みを作りたいとの構想が基本となっている。これまで「漆と漆掻き」「漆の植樹」などの研修会を市内で開いてきた。昨年4月の漆植樹は輪島市の漆植栽地で行われた。国産漆の普及に努める「壱木呂(いちきろ)の会」(東京都杉並区)に苗木40本を提供してもらい、市民も参加して20人で植樹した。
約3・5㍍間隔で高さ約70~80㌢の苗木を植えた。同会は都内の工芸作家らで構成され、1人が年「1㌔」の国産漆を使用することで漆掻きの需要を下支えすることを目指している。
8月には輪島の漆掻き職人・古地喜太郎(こうちきたろう)さん(90)を講師に招き、研修の後、参加した市民たちが実際に漆掻きを体験した。漆の木に掻き鎌で傷を付け、浸み出した漆を掻きへらに入れて採取した。
参加者の一人は「木に傷を付けるのは、結構力が必要で難しかった。採取する時は樹液がこぼれないよう、すばやくコップに入れるように気をつけた」と語り、古地さんの職人技に思いを馳(は)せていた。
漆の苗を植樹して、樹液を採取できる成木になるまでに10年以上かかる。その成木から6月~10月まで樹液を掻き取り、その後は木を切り倒してしまう。翌年、切株から新しい芽が出てくる。その芽を次世代としてまた育てるわけだ。このように、漆植栽は約10年ごとに漆採取、伐採、植樹を繰り返す。ちなみに1本の成木から採れる樹液は約200㌘でお椀5個分が塗れる程度という。極めて貴重な天然資源であることが分かる。このようにして採集された漆は、人間の体にも環境にも良い天然の優れた塗料となる。
同プロジェクトでは、幅広い人たちに輪島漆再生の意義を知ってもらうため、次の3段階に分類して市民参加型のイベントを開き、啓発活動に取り組んでいく方針だ。
まず今後も「植える事業」を掲げ、一般市民はじめ漆器に関わる人たちが苗木づくり・植栽・木の育成方法を専門家から学び植栽する。さらに下草を刈り漆山を整備するとしている。また「つくる事業」では、現役の漆掻き職人を講師に迎え、技術の伝承も含め、漆掻きを体験しながら試供品を作ることにしている。
さらに「使う事業」では、採取した輪島漆と中国産漆を比べその違いを学び、試作品についても双方の相違点を調べるという。
安嶋さんは「漆器産業を取り巻く環境は危機的状況が続いているが、輪島漆の再生などで創意工夫して乗り切っていきたい」と語っている。






