教師支える社会に
「教育新聞」(今年8月30日付)に、「元教諭の終わらない苦しみ」という記事があった。教師になって3年目、高校でバスケットボール部の顧問をしていた教諭は、部の生徒、特に担任のクラスにいた女子生徒を厳しく指導していた。
教諭は仕事に打ち込み、生徒や保護者に懸命に向き合っていて、部活動でも「成功体験を多く積ませたい」という一心だった。部は強くなった。教諭は日々の忙しさに追われて女子生徒たちとじっくり話す機会もないままだった。そして、ある生徒は出てこなくなり、自殺してしまう。
「自分の傲慢さが生徒の自死を招いた」「どんなに若くて未熟でも、教員は子供たちに大きな影響を与える」という元教諭の言葉は重い。
今、教師を取り巻く環境の改善が課題になっている。最も話題になっているのは長時間に及ぶ労働時間だが、同時に精神的な問題も深刻だ。年代がベテランと若手に大きく分かれ、ベテランの技術が継承されないことも、指摘される。ベテラン教諭のアドバイスなどがあれば違う結果になったのではないか。
筆者の知り合いに、「もう辞めようかと何度も考えた」という教師がいる。そのたびに生徒の成長や他の教師の励まし、保護者の感謝の声に力を得て、今も勤務している。
また、昨年度の対教師暴力は8600件余り起きていて、前の年度より600件増えている。フランスでは対教師暴力が大きな社会問題になり、政府が「教師を敬う文化を取り戻そう」と呼び掛ける事態になっているという。
政府の教育再生実行会議は昨年5月の提言で、「教師の日」(国際的には10月5日。日本では制定されていない)を創設して教師の仕事に理解を深め「学校応援週間」を設け保護者や地域住民が教師と協力する雰囲気をつくるよう提案している。教師を聖職として支える社会の風潮をつくることが欠かせない。(誠)