本当に大丈夫? その生活習慣

東京都健康長寿医療センター老年病理学研究チーム 石渡俊行部長

異常な細胞分裂もがん化の原因

 がんは日本人の死因第1位となっている。2人に1人が生涯のうちがんにかかり、3人に1人が死亡すると言われている。東京都健康長寿医療センターの主催で「ストップ!その生活習慣は本当に大丈夫?」と題して第150回老年学・老年医学公開講座が練馬文化センターで行われた。東京都健康長寿医療センター老年病理学研究チームの石渡俊行部長は「がんにならないために 今、見直す生活習慣」と題して語った。

喫煙、過度な飲酒など見直しを

本当に大丈夫? その生活習慣

東京都健康長寿医療センター老年病理学研究チーム 石渡俊行部長

 体を構成する臓器の細胞分裂が繰り返されるうちに、高齢者では、細胞のDNAの一部が別のDNAに変異したり、切断されたり、これらの変化が徐々に蓄積され異常な細胞が作られると考えられている。

 また、細胞内の染色体上にあるDNAの末端部分にはテロメアという6個のDNAの繰り返し配列があり、染色体同士が分裂するとともに徐々に短縮することから、加齢に伴って、さまざまな異常が生じる。多くのがん細胞では、テロメアが正常な細胞よりも極端に短く、異常な細胞分裂が多く見られることから、がんが起こる原因の一つとして考えられる。

 国立がん研究センターの2017年報告によると、日本人は喫煙、感染(慢性炎症)、過度な飲酒、過度な塩分摂取、太り過ぎと痩せ過ぎの五つの生活習慣が、がんと関係しているとされている。2016年の厚生労働省の報告によると、たばこを吸うと、肺がんだけでなく、食道がん、膵臓(すいぞう)がん、肝臓がん、胃がん、膀胱(ぼうこう)がん、副鼻腔がん、口腔がん、咽頭がん、子宮頸(けい)がんなどさまざまながんになりやすいことが分かっている。

 C型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスが肝臓内で炎症を引き起こし、完治しないままでいると、肝硬変、肝臓がんへと進んでいく。日本人の肝臓がんの80%がC型肝炎、16%がB型肝炎、4%が飲酒によって引き起こされると考えられている。だが、適切な治療を受けることで、肝炎ウイルスの活動を抑えたり、死滅させることができるようになった。

 適度なアルコール摂取は「百薬の長」と言われ、日本酒で1合(180㍉㍑)、ビールで大瓶1本(633㍉㍑)が成人の健康な摂取目安とされている。過剰摂取はさまざまながんのリスクとなってしまう。特に、女性では栄養を過剰に摂取すると、太り過ぎの影響で閉経後の乳がんリスクが高まる。ボディーマス指標(BMI)が30を超えると乳がんになりやすいことが知られている。

 高齢になると、がんになりやすい、という仕組みは、いまだ完全には分かっていない。しかし、がんになりやすい生活習慣を続けていると、細胞のDNAに傷が増えると考えられている。

 喫煙、過度の飲酒を避け、慢性的な炎症を放置せず、減塩し、痩せ過ぎ、太り過ぎに気を付け、異常を感じたら、かかりつけ医を受診することも大切。今までがんにならなかったからといって、生活習慣を変えないで良いということはない。生活習慣を見直すべきだ。