音読で文字への抵抗感なくす

北海道師範塾「教師の道」研修講座

 教育改革が叫ばれて久しい。教育基本法の改正、教育委員会制度の見直し、道徳の特別教科化などさまざまな制度・カリキュラム改革が進められている。もっともそれらの改革が児童生徒にとって有益かどうかの評価はもう少し先の話。一方、教師が自ら研鑚(けんさん)を務めることの重要性を説く民間の教育団体・北海道師範塾「教師の道」(塾頭、吉田洋一・社会福祉法人北海道社会福祉事業団理事長)は今月5,6日の2日間にわたって冬季教育研修講座を開き、教師の質向上や若手教師らによる児童生徒の目線に立った教育実践例などが報告された。(札幌支局・湯朝 肇)

中学教師が教育実践を報告

子供の目線から創意と工夫

音読で文字への抵抗感なくす

吉田洋一塾頭

 「一昨年、日高管内の中学校に教師として初めて赴任しました。しかし、そこで私が担任として担当したクラスは学級崩壊に陥りました。本当に苦しみました。しかし、そこからがスタートでした。私にとって足りなかったのは子供たちの目線に立って教壇に立っていなかったということです」

 今月6日、札幌市内のホテルで開かれた北海道師範塾「教師の道」主催の冬季講座で新ひだか町立静内第三中学校の青柳琴弓教諭は、自身が体験した教育実践をこう語って報告した。

 同教諭が改善に向けて行ったことは音読指導だった。生徒たちが文章を音読し、文字を声に出して読むことで、視覚と聴覚から文字を認識し、文字の認識能力を高めていくのが狙いだ。

 暗唱を取り入れゲーム感覚で行えるように工夫し、成績の良い子も悪い子も楽しく参加できるようにした。それによって生徒の文字への抵抗感をなくしていったという。

 「子供たちは最初、国語が嫌いで文字への抵抗感、苦手意識が相当ありました。そこで、最低限文字を追えるようにしなければならないと考えました。今では生徒の音読もだんだん上手になり、長文の教材でも堂々と自信を持って音読できるようになっています」と同教諭は語る。

 この日の教育実践報告は青柳教諭のほか、北海道釧路養護学校の稲岡沙織教諭、恵庭市立和光小学校の松野浩毅教諭らが行った。

 北海道師範塾「教師の道」は、道内小中学校、高校の現役教師や大学教授など教育関係者の有志が集まり平成22年10月に創立した。今年は創立5周年となることから、1日目の5日に文部科学省初等中等教育局初等中等教育企画課長の串田俊巳氏を招き、「教育改革の方向性」をテーマとする特別記念講演会を企画した。

 引き続いて行われたシンポジウムでは小清水町立小清水小学校の寺本聡校長、平取町立平取中学校の小山内仁校長、元道立高等学校校長の近田勝信氏、元道立特別支援学校長の鈴木重男氏ら現役校長、元校長らがパネリストとして参加し「北海道の教育と教員の質の向上」について語り合った。

音読で文字への抵抗感なくす

「北海道の教育と教員の資質向上」をテーマにしたシンポジウム=札幌市内のホテル

 この中で近田氏は、「教員同士の人間関係により教師が育った時代は遠くに去り、同僚とのコミュニケーションが取りづらくなった今日、教師の力量向上には研修の充実が何よりも大切。ただ、公の研修に頼らずとも自ら外に出て、自己の変容を図っていくことも大事」と訴える。

 「教師の道」の創立経緯について吉田塾頭は、「北海道は児童生徒の学力・体力が全国に比べて劣っていると言われてきた。また、当時は教師が生徒に授業を授けるという本来の責務を放棄する服務義務違反が随所から指摘されていた。そうした、子供たちにとって不幸な事態を解消したいという思いから有志が集まってつくった」と語る。

 「教師の道」では毎年夏季と冬季に開催する研修講座のほか、教師を目指す学生や若者を対象に教師養成講座を開いている。今回、教育実践を報告した青柳、稲岡教諭も同塾の養成講座に参加して1昨年から教員となっている。今後について吉田塾頭は、「これまで50人ほどが当塾で養成講座に参加し教師になっている。そうした若い人たちが現場で一生懸命に孤軍奮闘しながら、自ら研鑚していく姿は非常に頼もしい。これからも彼らのような若い教師による実践体験の発表の場をもちたい」と話す。