教育環境のIT化どこまで

「デジタル教科書」にみる実情

 社会の情報化が急速度に進む中、教育現場でもそれにどう対応するかが大きな課題となっている。政府は、平成25年6月の「世界最先端IT国家創造宣言」(26年6月全面改訂)で、世界最高水準のIT利活用社会を通じた「情報資源立国」を目指すことを表明し、それを牽引(けんいん)し、支え、享受する人材を育成するため、32(2020)年までに「教育環境のIT化を実現する」と謳(うた)っている。その実情を「デジタル教科書」を軸にして考えてみる。(武田滋樹)

指導者用の普及が拡大/学習者用は初期段階

教育環境のIT化どこまで

「指導者用デジタル教科書」発行の有無

 教科書は学校教育で唯一使用が義務付けられた「教科の主たる教材」となる「児童生徒用図書」であり、内容の正しさや適切さなどを担保するため国が検定を行っている。従来の学校教育は基本的に、このような紙の教科書に基づいて教師が黒板でその要点を教え、児童生徒はそれをノートに書き取って理解し、宿題やペーパーテストでその理解を深めたり確認するという形式で行われてきた。紙の教科書はこのような従来の学校教育のスタイルの象徴だ。

 ところがICT(情報通信技術)の発展によって、高速通信網を土台にPCやタブレット、スマートフォンなどが急速に普及し、全国の公立学校(小中高校、特別支援学校など)でも、教育用コンピューターは児童生徒6・4人に1台、校内LAN整備率は86・4%、超高速インターネット接続率81・6%、そして電子黒板のある学校も78・0%になった(文部科学省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」=以下、情報化調査結果=平成26年度)。そのような施設を教育に生かすため、一定の質が保証された「デジタル教科書」の必要性が高まっているわけだ。

 しかし、デジタル教科書を従来の制度の中でどのように位置づけ、従来の検定制度とどのように関係づけていくのかという、大きな問題が横たわっている。政府は「規制改革実施計画」などの要請もあって、昨年5月から「『デジタル教科書』の位置づけに関する検討会議」(座長、堀田龍也・東北大学大学院情報科学研究科教授)でデジタル教科書に関わる全般的な問題の検討を続けている。

 現在、デジタル教科書は「デジタル機器や情報端末向けの教材のうち、既存の教科書の内容と、それを閲覧するためのソフトウェアに加え、編集、移動、追加、削除などの基本機能を備えるもの」(文科省「教育の情報化ビジョン」)と定義されている。これから分かるように従来の制度では「教科書」ではありえずデジタル教材の一種だ。おもに教員が電子黒板等により子供たちに提示して指導するためもの(指導者用)と、主に子供たちが個々の情報端末で学習するためのもの(学習者用)に大別される。

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「指導者用デジタル教科書」の普及率

 文科省が毎年発表する情報化調査結果によると、「指導者用デジタル教科書」の普及率は、小学校では平成22年度15・5%から26年度には43・5%に上昇し、中学校でも同じ期間に14・1%から46・0%へと増えている。教科書と併用して教育効果を上げている。

 これと呼応するように、教科書会社も、先の改訂を機に新しい教科書に準拠した「指導者用デジタル教科書」の発行を大幅に増やしている。一般社団法人教科書協会の「『デジタル教科書』の現状と課題」によると、小学校の場合、平成23~26年度版の教科書に準拠した「デジタル教科書」は全51種の教科書のうち32種(62・7%)だけの発行だったが、改訂後の27~31年度版になると全48種のうち43種(90%)発行し、発行予定がないのは生活(2種)、地図、保健(各1種)の4種だけとなった。中学校の教科書も、24~27年度版は58種のうち41種(70%)のデジタル教科書が発行されており、新たな改訂を経た28~32年度版はさらに増加する見通しだ(教科書協会関係者)。

 ただ、デジタル教科書の導入については、自治体や学校によって取り組み方に大きな格差がある。平成26年の指導者用デジタル教科書の普及率を都道府県別でみると、佐賀県の96・1%を筆頭に、沖縄県(68・1%)、福井県(67・2%)、石川県(65・9%)と続いていくが、最下位の北海道の普及率は9・8%しかなく、群馬県(16・2%)や広島県(19・8%)も10%台にとどまっている。

 「指導者用」は学校現場で普及が進んでいるが、児童生徒がダブレットなど各自の端末で使用する学習者用のデジタル教科書は、平成25年から高校用、27年から小学校用が発行されているが、まだ先進校で実証的な活用が始まったばかり。児童生徒用の端末機が必要なため、費用面で導入可能な自治体や学校は限られる。学習指導の方法もまだ研究段階で、急激な普及の拡大は見込めない。