福島大、「農学系学部」新設を本格検討

平成30年度春のスタート目指す

 国立大学法人福島大学(福島市)はこのほど、「総合科学としての農学」を学ぶ学士課程レベルの教育研究組織(学部相当、4年間)を設置することについて本格的な検討を始めた。組織の開設時期は平成30年春を目指し、既存の2学群4学類の再編も行う。(市原幸彦)

既存の2学群4学類を再編/人材養成に高まる期待

福島大、「農学系学部」新設を本格検討

農学系学部の新設に向け検討を始めた福島大学(福島市)

 東京電力福島第一原発事故の復興再生に加え、環太平洋連携協定(TPP)への対応、農家の高齢化や担い手不足といった構造的な問題もあり、福島県の基幹産業である農業は大きな転換点を迎えている。また、農業の企業経営的な発想の必要性が指摘される。

 一方、生産から流通、販売を手掛ける6次化の取り組みや観光産業との融合など、農業に新たな価値を付加する動きが出てきた。生物化学やバイオ技術の導入も進み、若者が農業を職業として選択する可能性も広がっている。

 このため、今年4月に学内に「福島大農学系人材養成機能調査室」を設け、県内のニーズや高校生らの進学意向、農林水産関連企業、団体の就業状況などを調査した。

 県内の企業、団体、自治体対象のアンケート調査結果では、「農学部等が設置された場合、卒業生を採用したいか」との設問に52%が「採用したい」と回答。学部に求める分野については「作物を育てるための学問」「経済・経営の観点からの農業支援」「食品にかかわる学問」が上位を占め、期待の高さを示した。

 高校の進路指導担当者向けアンケートでは、生徒の農学系への進学意向についての設問に「10人以上いる」「数人いる」「1人いるかどうか」の回答は約8割に上った。調査室によれば「進学や採用について一定の期待が持て、学士課程レベルの教育研究組織設置が必要だと判断した」という。

 同アンケートの調査結果を受け、功刀俊洋同大副学長を委員長とし、県やJA福島中央会も参加する学部設置に向けた協議会を設けた。協議会は、先月24日までに同大に報告書を提出。住民帰還後の営農再開や風評対策など原発事故による問題のほか、過疎化や担い手不足に対応するため必要と位置付けた。

 今後の検討の方向は「少子化や運営費交付金が減少している状況を踏まえ、学生定員、教員数を増やさず、現行の人間発達文化、行政政策、経済経営、共生システム理工の4学類の定員数見直しや教員移換を前提に組織新設を進めたい」。設置場所については「まったくの白紙」だ。

 原発事故後、農産物の安全・安心を確保するため、国や県を中心に農地の除染、栽培技術の研究などが進められている。農業者もさまざまな取り組みを行っており、全国の大学や研究者も専門的知識を生かした支援を行っている。

 福島大も大震災と原発事故の勃発直後、平成23年4月に、復旧、復興支援を目的に「うつくしまふくしま未来支援センター」を設置。事故の被害実態の把握や生産基盤の回復、食の安全・安心確保に向けた研究、水田の汚染状況の調査などを続けてきた。

 「農学部を持つ他県の大学の研究者らが県内各地で農業分野の復興支援を担ってきた経緯もあり、県内の農業団体や経済界などから、福島大に農業の復興再生を担う人材養成が求められてきた」(調査室)。

 日本学術会議などが一昨年発表した緊急提言は「原発事故の被災地である福島県には東北六県で唯一、農学系の高等教育・研究機関がない」ため、新たな対策や技術の導入が遅れる―と指摘。

 郡山市に、農業短期大学校(矢吹町)を備える農業総合センターがあるが、震災以降、学生数が減少し就職率も低下している。「既存の組織との住み分け、役割分担ははっきりさせ、農学系の学士課程レベルの研究組織を作ることを大前提として検討していきたい」と調査室。

 同大は今後、設置場所や規模、カリキュラムや教員の配置などを検討する組織と、学類再編を検討する組織を早急に設け、29年3月から4月をめどに構想をまとめ、文部科学省に提出する。

 調査室では「福島の農業再生には長期的な課題がまだ多い。地元の大学だからこそ、県内農業に関わる分野で課題解決に貢献し活躍できる人材を育成していきたい」としている。