虐待から子供をどう守るのか

横浜市で「防止推進全国フォーラム」

 全国児童相談所で対応した昨年度の児童虐待相談件数は88931件。神奈川県は1万190件、大阪に次ぐ多さだ。11月は「児童虐待防止推進月間」。横浜市で開催された「子どもの虐待防止推進全国フォーラム」(厚生労働省主催)で居所不明児童の現状、総合的な虐待予防対策が議論された。(横田 翠)

情報共有と連携強化が必要/居所不明の実態把握を

虐待から子供をどう守るのか

「すべての子どもたちを守るために」をテーマに行われた「子どもの虐待防止推進全国フォーラム」=8日、横浜市

 幼い子供が親の都合で、居所を転々とする居所不明児童。平成25年4月、横浜市南区の6歳女児が磯子区の住宅街の公園で、遺体で発見された。所在不明で、児童相談所(児相)が未就学情報を確認したのは亡くなった後だった。

 南区の事件を契機に、翌年厚労省が実施した全国規模の居所不明児童調査では、最終的な居所不明の数は141人(26年10月20日時点)。事件を取材したジャーナリストの石川結貴さんは分科会で「女児の妹からの通告という偶然がなかったら土に埋もれたままだった」、「厚労省調査は住民票がない子供は対象外で、実態を把握していない」と所在や安全確認の遅れを指摘した。

 1年以上居住実態がない場合、自治体は住民票を消去する。南区の事件の翌年5月には厚木市内のアパートで男児の白骨遺体が発見された。推定死亡時期は発見の7、8年前。所在確認できないまま、住民票からも消されていた。

虐待から子供をどう守るのか

児童虐待死亡数の推移

 厚木市の事件を辿ると、平成16年、男児(当時3歳)が路上で一人でいる所を警察が保護、児相が一時保護したが、翌日実母に引き渡され、一時保護が解除。家庭訪問の方針だったが4年以上行われず、この間に亡くなった。発見以前に就学時健康診断未受診、未就学の事実は確認されていたが、「養護ケース」であったことや点検漏れにより、行政も本人と会えないまま、住民基本台帳、学齢簿(学籍簿)からも削除された。児相が警察に行方不明を届け出てようやく発見に至った。

 二つの事件の検証委員会メンバー、飯島美奈子弁護士は、分科会で「乳幼児健診は忙しくて行かない場合もありうるが、就学児健診に行かないのはありえない」と、所在不明への危機意識の欠如を指摘した。また厚木市の事件では4年以上家庭訪問がないまま放置された。情報のデータ化の遅れ、継続案件を一括チェックする進行管理体制の不備も大きいとした。

 不安定な仕事環境、離婚など親の事情に子供が引きずられ、孤立社会の闇に消えていく。福祉や医療、子育ての支援があっても受けない親をどう行政や社会につなげていくか。自治体間、児相と警察間の情報共有と連携強化の必要性が指摘された。

 会議では命の危機にある子供の早期発見と救済保護、乳児院や養護施設で育った子供たちの自立支援の課題も議論された。虐待の連鎖を断つためには家庭的養育環境が必要だが、里親委託、特別養子縁組が進まない、法的課題も浮き彫りになった。

 明治学院大学の松原康雄教授は基調講演の最後、「子どもの権利条約にあるように、家族を支援していく社会の役割がある。家族の役割を放棄してしまう事態が起こったら社会がどう養育を親と一緒に担っていくか。子育て支援、在宅型養育支援、分離型養育支援、親と一緒に社会が養育していくとはどういうことか、もう一度考えていくことから、虐待防止の対応が始まる」と締めくくった。

 児童虐待防止対策を協議する厚労省ワーキングチームは、児相が担っている「保護・介入」と、親に対する相談対応などの「支援」機能を分離し、支援機能は市区町村に移行する方向だ。すでに伊勢原市では「子ども家庭相談室」を設置。鎌倉市では児相と市町職員が同行訪問するなど、両者の連携が始まっている。

 虐待対応に当たる児相の専門職員は量、質ともに圧倒的に不足している。厚労省は国家資格の専門職育成を検討、時代に即した児童福祉法改正の中身をまとめ、来年の通常国会に提出する方向だ。