石川県 能登の里山里海人を「聞き書き」
技や知恵など地元の高校生が取材
新潟県佐渡市とともに、日本初の「世界農業遺産」に認定された石川県能登半島の高校生たちが、その道の「名人」たちを取材し、冊子にまとめて刊行する能登の里山里海人「聞き書き」事業が4年目を迎えた。夏休みに開かれた研修合宿に参加して取材のノウハウを学んだ生徒たちは、早速取材に取りかかり、来春発刊を目指している。(日下一彦)
「後世に継承」目的に4年目/来春の冊子発刊目指す
この事業は、石川県と能登の4市5町、関係団体で構成する世界農業遺産活用実行委員会が、平成24年度から行っている。認定理由の「能登の里山里海」で、長年にわたって農業や漁業、祭礼、伝統技術の維持・継承、地域の景観、生物多様性の保全などに携わってきた「能登の里山里海人」から、その技や知恵、地域に対する思いなどを地元の高校生が聞き書きし、後世に継承することを目的に始まった。その成果は毎年、冊子で刊行され、一般への普及、啓蒙も目指している。
聞き書きは話し手の言葉を録音し、一字一句すべてを書き起こしたのち、話し手の語り口で文章にまとめる手法。農林水産省・文部科学省・環境省主催の「聞き書き甲子園」などで用いられている。
今年度の研修は8月6~8日、能登町の国民宿舎「能登やなぎだ荘」で開かれた。公募によって選ばれた七尾高校や能登高校、飯田高校など9高校から1、2年生10組(21人)が参加した。生徒たちは事前に取材希望のジャンルを記入し、各自治体から推薦された名人の中から対象者を決め、2人1組(3人でも可)で取材する。
3日間の合宿で、取材対象から上手に話を引き出す手法や原稿の書き起こし方、インタビューに用いる電子機器の使い方、さらに写真撮影の仕方まで、聞き書きの基本的な手法を学んだ。講師はNP0法人共存の森ネットワーク(東京)が担当した。
初日はオリエンテーションで世界農業遺産「能登の里山里海」について学び、続いて聞き書きの手法を教わった。2日目は午前中、取材の準備に取りかかり、各名人のプロフィールを元に、組ごとにインタビュー項目を考え、そのポイントや心構えなどを整理した。同時にICレコーダーの使い方や写真撮影での手ブレ防止なども確認した。
そして午後、各市町職員の送迎で名人の待つ自宅などを訪問した。今年の名人は、朝ドラ「まれ」でブームになり、たくさんの観光客が訪れている揚げ浜式塩田の塩づくり、同じく伝統技術の輪島塗の職人、初競りで一房100万円の高値が付いた高級ブドウ・ルビーロマンの生産農家など10人で、2~3時間取材した。
その後、宿舎に帰り、夜はその体験を共有した。どの生徒も初めての取材とあって、「最初は不安だったけど、自分たちの故郷でこんな価値のある仕事をしている人がいることが分かり、改めて誇りに思った」などの声が聞かれた。
最終日のグループワークでは、書きおこしの例文をもとに、文章構成やタイトル、小見出しのつけ方など作品のまとめ方を教わった。その中で良い事例と悪い事例が比較され、記述内容は同じでも、言葉使いや方言などがきちんと伝わっているか、その人の語り口で書いているか、出身地や生業に就く動機など聞くべきことが盛り込まれているかを検討し、2回目の取材の準備をして研修を終えた。
今後のスケジュールは、9月中にそれぞれ2回目の取材を行い、10月12日に第2回研修がのと里山空港ターミナルビルで開かれる。来年2月にはリポートを完成させ、3月に作品集の刊行と発表会の開催が予定されている。
生徒にとって、身近な能登の産業や伝統文化を深く知る機会となり、また名人たちの生き方や生業に取り組む姿勢、人となりに直接接することで得るものは大きいようだ。さらに国際化が進む昨今、自らの故郷を知り、そのルーツについて理解を深めることは、極めて貴重な体験ともなっている。
これまでに参加した生徒の中には、ボラ待ち漁(漁業)と虫送り(祭礼)を2年続けて取材した生徒も出ている。また大学生になり、研修で自らの体験談を後輩に披露する動きも出ており、広がりを見せている。なお、過去3年間の作品集は世界農業遺産「能登の里山里海」のHPに掲載されている。