秋田公立美術大学附属高等学院、1年次から美術工芸の授業

「充実した3年間」と卒業生

 秋田公立美術大学附属高等学院(秋田市、鈴木司校長、全校生徒86人)は全国的にも珍しく、美術工芸の授業を一年次から実施している。創立63年と歴史は長く、設立当初は手に技術をつけるための工芸学校だったが、今ではほぼ全員が大学や専門学校などへ進学する。「美術が好きで、充実した3年間が送れた」と卒業生は語る。(伊藤志郎)

ほぼ全員が大学などへ進学

1年次から美術工芸の授業

金属のキノコや木製の机など多彩な作品が並ぶ生徒作品展「明日のクリエーターたち」=秋田市にぎわい交流館AU

 先月、秋田市にぎわい交流館AU(あう)で同学院の第62回生徒作品展「明日のクリエーターたち」が5日間にわたり開かれた。1年生から3年生までの授業作品約300点を紹介するもので、静物画の油彩から、キノコを表現した金属工芸、木材の引き出し、ふた付きの金属の器、そしてコンピューターを使った住宅のインテリアデザイン、企業ロゴや商品パッケージなど多彩なジャンルの美術工芸が展示され、多くの観客で賑(にぎ)わった。

 3年生による「森の住人」は金属作品。小さなキノコの傘がザラザラしているのに対し、大きなキノコは光沢を放ち、アミガサタケの白いアミは本物っぽい。秋田の農業を元気にする計画や、秋田特産のイチゴやフルーツ、酵母などを利用した仮想お菓子メーカーのロゴ・包装紙デザインなどに、若者の「元気良さ」が見られた。

 東京在住の60代女性は「超感動した。真っ直ぐなパワーをストレートに投げている。秋田に残って地元で力を発揮してくれればうれしいが、逆に外に出ていくのはしみじみもったいないと思う」と語った。

 何人かの3年生に聞いた。ビジュアルデザイン専攻の佐藤大成さんは「美術が好きで、充実した3年間だった。人数が少ないから仲良くなれる。『引き出しを多くしないと良いデザインが出来ない』と先生から言われ、最新の情報を自分から取りに行くようにしています」と答えた。

 宝石の専門学校に進学する畠山美貴子さんは「水彩画を描いていました。ジュエリーの仕事をしている非常勤の先生から話を聞いて興味が湧きました。誰が見ても宝石は美しい」と語る。今後は銀からプラチナへ挑戦するのが夢という。

 同学院は、卒業と同時に大学受験資格が与えられる「専修学校高等課程(高等専修学校)」だ。同学院を卒業しても「高校卒業」とは言えないが、高校卒業者と同等の学力があると認められる。そのため、ほぼ全員が進学を希望する。

 一括募集・一括入学で、授業は普通科目の国語、数学、外国語、地理歴史、理科、芸術、体育など20単位に加え、一年から専門教科として素描やコンピューター、デザイン、工芸の基礎など10単位を取得する。一年生の3月に、希望や適性、成績に応じて木材工芸、金属工芸、インテリアデザイン、ビジュアルデザイン各コースへの所属が決定。2年からは実習が始まり、3年ではコース別学習の集大成として卒業制作に取り組む。

 同学院は昭和27年に秋田市立工芸学校(修業2年)として開校。50年に秋田市立美術工芸専門学校と改称。60年には文部省(当時)から大学入学資格付与の指定を受けた。平成7年に秋田公立美術工芸短期大学附属高等学院、25年には秋田公立美術大学の開学に伴い現在の名称となる。卒業者には、人間国宝で金工作家の玉川宣夫氏がいる。

 「昭和27年の開校当初は手に職をつけるのが主な目的だったようですが、今ではほぼ全員が進学で、最初から就職を考えて入ってくる人はいません」と同学院教員の芝山真理子さん。特に同学院と同じ敷地に建つ秋田公立美術大学の唯一の推薦入試指定校(3人)となっているが、平成25年度は一般入試でも5人が入学した。

 同学院ではマックを20台設置し、一人一台の操作が可能。将来に備え3年生にはワープロ、情報処理、カラーコーディネーターなどの資格取得を奨励。なかには日本語ワープロ、情報処理技能、文書デザインの3検定でいずれも1級を取得する学生もいる。

 数は少ないが部活動も活発で、工芸コースの生徒が美術部でイラストを描き、また書道パフォーマンスや砂像甲子園での活動も。展覧会・コンクールへの出品も盛んで、秋田県美術展覧会(県展)での特賞受賞や、秋田市老人保健福祉月間ポスターデザインや秋田中央警察署犯罪被害防止ポスターに採用される生徒も出ている。