福島・いわき市、体験型経済教育施設―Elem(エリム)
「カタールフレンド基金」が開設
東日本大震災の被災地復興支援プロジェクトに資金を援助する中東のカタール国の「カタールフレンド基金」が福島県いわき市に「いわき体験型経済教育施設―Elem(エリム)」を5月末にオープンさせた。市内の小中学生が実際の街や店を再現した施設で学ぶ体験型の経済教育だ。同様の経済教育は京都市、東京都品川区などですでに行われているが、専用施設はいわき市が初めてだ。(市原幸彦)
市役所や金融機関、病院など
“大人”として社会の仕組み学ぶ
Elemはアラビア語で「教育」を意味する。いわき市教委が施設を管理し、企業が店舗の開設や社員の派遣に関わる。家計を預かる保護者も助言に加わる。施設は鉄骨3階建て、延べ床面積約1374平方㍍で、建設費は約3億7000万円。自治体の枠を超える先進的な経済教育として注目されている。
公益社団法人「ジュニア・アチーブメント日本」が米国で開発された教育プログラム、スチューデント・シティ(小学5年生向け)とファイナンス・パーク(中学校2年生向け)を提供。基金の助成を受けて施設を整備し、市に無償で譲渡した。
施設内は、実際の街をイメージ。市役所をはじめ金融機関、新聞社、航空会社、ホテル、病院、薬局、不動産業、飲食業などの企業の協力を得て、事務所や店舗に見立てたブースが並んでいる。ブースを設けた企業の社員も体験学習に協力する。
子供たちは、「総合的な学習の時間」で8時間から10時間の事前学習を行った上で、施設で“大人”として1日過ごす。事後は各校で1時間程度のまとめの学習を行う。体験だけではなく消費生活、貯蓄管理・人生設計など、生活に必要なスキルを学び「社会のしくみや経済の働き」を正しく理解し、自分の意志で進路選択・将来設計が出来る主体性と自立を育む。
スチューデント・シティー(2階)では、児童がエリムで労働と賃金の受領、賃金に見合った消費ができるよう家計簿をつけながら計画的に生活することを体験学習する。
ファイナンス・パーク(3階)では、想定された収入と家族構成に見合った生活設計をできる力を身に付けるため、マイホームのローン契約や光熱水量、生命保険の選択、冠婚葬祭や家族旅行の内容を決めるなど、生活の中で必要となる選択や将来設計について学ぶ。
体験学習を行った児童からは「仕事が苦しいと感じることもあったけれど、チームワークで乗り切りました。今回の体験で、社会には大事なものがたくさんあることを学びました」などの感想が寄せられている。
市内の小学5年生と中学2年生の合わせて約6400人が年1回、施設で学ぶ。震災の復興支援ということから市教委は「いわき市だけというのではなく県内各地や北関東地方の学校にも来年度以降の利用を呼び掛けています」という。
5月末に行われたオープニングでは、カタール国のH・アルアティーヤ外務担当国務大臣があいさつ。「被災地の今後の発展には、経済の再活性化と多角化に次世代の人々の教育が必須です。この施設が日本のビジネス界や産業界のリーダーを育成する助けとなれば幸いです」と、経済教育の重要性を強調した。
カタールフレンド基金は、平成24年年1月に設立された、東日本大震災の被災地復興を直接的に支援するカタール国の基金。26年12月までの約3年間にわたり、「子供たちの教育」「健康」「水産業」の3分野を支援。支援金額は総額で1億米㌦。これまで宮城県女川町の多機能水産加工施設「マスカー」の整備などを支援している。
仙台市でも基金から約1億5000万円の助成を受け「仙台子ども体験プラザ―Elem」が8月19日、アエル8階にオープン。宮城県内や近県にも利用を呼び掛ける。両施設あわせると東北地方の全域の小中学生が対象となり、基金では受益者数は直接的・間接的受益者と合わせ、約3万1700人と見込んでいる。
いわき市教委によると「エリムの今年度運営費には、市が用意する一般財源を主に充てる」。ただ国や県による経済教育への助成事業は、高校・大学に比べ、小学校・中学校向けが少ない。市教委も「エリムの開設に併せ、経済教育を地域で盛り上げたい。今後そうした仕組みや予算の裏付けを図りたい」としている。