小学校で古典芸能鑑賞教室

石川県志賀町の3・4年生

 伝統芸能の盛んな石川県で、児童・生徒が古典芸能に触れることで情操教育を進めるとともに、その振興にも役立てようと、芸術鑑賞推進事業が活発に行われている。その一環として、このほど志賀(しか)町にある町立高浜小学校で古典芸能鑑賞教室が開かれた。町内八つの小学校の3・4年生353人が参加。長唄「越後獅子」の鑑賞に続き、講師から三味線や箏(こと)、日本舞踊の手ほどきを受けた。(日下一彦)

長唄「越後獅子」を鑑賞/三味線、箏などの演奏も体験

小学校で古典芸能鑑賞教室

古典芸能鑑賞教室で長唄「越後獅子」を鑑賞する児童たち=石川県志賀町立高浜小学校

 古典芸能鑑賞教室は、平成26年度の県芸術鑑賞推進事業(主催・県芸術鑑賞推進委員会)の一つとして開催された。この事業は3年度に始まり、子供たちに邦楽と舞踊の魅力を知ってもらうことで、鑑賞能力の向上と豊かな情操の涵養(かんよう)を図り、県文化芸術の振興に資することを趣旨としている。

 プログラムは長唄「越後獅子」の鑑賞に続き、三味線・箏の演奏や日本舞踊の体験などで2時間余り行われた。講師は金沢社中の11人。邦楽と舞踊の魅力を身近に体験してもらおうと、同校体育館の舞台でまず長唄「越後獅子」が演じられた。

 越後から江戸へ出稼ぎにきた角兵衛獅子の哀歓を描いたお馴染みの舞踊で、叙情的な旋律が流れる中、苦労人の芸人が軽妙な所作を披露した。佳境に入ると、角兵衛獅子が一本歯の高下駄(たかげた)を履いて踊ったり、長さ3㍍の2本の布さらしを巧みに操り、大波小波を作り出すと、児童たちは演技に引き込まれ真剣な表情で見入っていた。

 続いて、三味線と箏、日本舞踊の説明と体験が行われた。三味線は杵屋弥三辰(きぬややさたつ)さんが解説し、一挺(ちょう)二挺と数えることや中国から日本に伝わった経緯などを紹介した。

 14世紀末に琉球に伝わり、それが16世紀中頃、室町時代に大坂・堺の港に伝来し、今日の三味線の原形ができた。中国ではヘビの皮を張り、「三線(さんしぇん)」と呼ばれたが、日本に渡ると「三線(さんせん)となり、三味線になった経緯を分かりやすく語った。児童たちは事前に配布された手引書を見ながら説明に聞き入っていた。

 解説の後、女子児童4人が舞台に上がり講師の指導を受けながら、日本の伝統的な歌曲「さくらさくら」に挑戦した。三味線独特の余韻を生む「サワリ」や棹(さお)の勘どころを押さえる左指の使い方も教わりながら、真剣に学んでいた。杵屋さんから感想を求められると、「とても難しかった」「緊張したけど楽しかった」と、笑顔を見せていた。

 箏は田中杉芙勢(すぎふせ)さんが担当。一面二面と数えることや桐の木でできていること、さらには奈良時代に雅楽とともに中国から伝わり、形が中国では高貴とされる龍に似ていることなどを学んだ。

 また「琴」との違いについても説明があった。箏は調絃のため、各絃に一つ箏柱(ことじ)を立てるが、琴は柱を立てず、三味線同様、勘どころを押さえて音の高低を決めて演奏することを教わった。

 その後、児童10人が箏の前に坐り、右手に演奏用の爪を付けて、三味線体験同様、「さくらさくら」に挑戦。最初は戸惑いながら絃を弾いていたが、講師の丁寧な手ほどきもあって、徐々に音色もしっかりしてきた。4年生の男子児童は「箏は難しいけど、音が好きになりました。習ってみたい」と目を輝かせた。

 全員が参加した体験教室では、三味線や箏の絃を弾いたり、長い布サラシを操ったり、高下駄で歩いたりと、思い思いの楽器や道具に触れて、それぞれの感触を楽しんだ。

 日本舞踊では藤間勘菊さんの指導で、赤や緑、藍色の扇をきれいに広げるコツや扇の持ち方、操り方など所作の違いひとつで、桜の花びらを演じたり、その花びらを集めたり、桜を愛(め)でるしぐさに変化するなど、扇一本で表現が多彩に変わることを学んだ。

 最後に三味線、箏、日本舞踊の代表児童24人が舞台に上がり、講師とともに覚えたての「さくらさくら」を披露した。藤間さんは「これからも古典芸能を習う機会があったら、どんどん手を上げて挑戦してみて下さい」とエールを送った。

 4年生の男子児童は「高下駄を履いて歩いたけど、とても難しかった。舞台ではスムーズに演技できるのですごいと思いました」と感想を語った。4年生の女児児童は「箏は絃がたくさんあるのに、上手に弾けるのでびっくりしました」と驚いていた。