厳しい環境に適応する人材育成
秋田市の国際教養大学、開学10周年
秋田市にある公立大学法人国際教養大学(AIU)は、すべての授業が英語で行われ、しかも学生には一年間の留学が義務付けられており、全国から注目されてきた。しかし、これらは全国の約50大学で導入が進み、もはや際立った特長とは言えなくなっている。2004年の開学から10周年を迎えたAIUは、厳しい国際環境の中で生きていく力を持つ人材育成に向け、さらなる高みを目指している。(伊藤 志郎)
全ての授業は英語で実施/留学義務、一年生は全寮制
全国761大学の中で、同大学は高い評価を受けてきた。学長による評価では京大、東大、金沢工大についで総合4位、教育分野では金沢工大とともに1位だ。
昨年6月に就任した鈴木典比古(のりひこ)学長は国際基督教大学の前学長。先月行われたオープンキャンパスでのあいさつで、AIUの特長について次のように語った。
「24時間、国際教養のシャワーを浴びて逃れることの出来ない環境」
すべての授業を英語で行う上に、学生には一年間の留学が義務付けられている。さらに、一年生は全員寮に入り、図書館は365日24時間オープン。鈴木学長の表現は、決してオーバーではない。
今年4月の入学者は165人で、入試倍率は平均11倍を超える。一クラス平均17人と少人数授業で、留学生の割合は5人に1人と高い。とは言っても、AIUは誰にでも薦められるわけではない。後述するが、現状では就職先が限られるからだ。それでも、学生の約3割は関東出身で、全国的な注目度を誇る。
基本的な学年の構成は、1年と2年は主に日本人。3年生は海外からの留学生約180人(同大学の学生はこの前後に海外に留学)、4年生は留学から帰ってきた日本人という「サンドイッチ構造」(同学長)が特徴でもある。
一年で義務付けられている寮は、共用部分を含め4人部屋。当然、留学生とも生活を共にする。
同大学は交換留学制度をとっており、45の国・地域の164大学と提携。海外の提携大学から留学生を一人受け入れることで、学生を一年間その提携大学に派遣できる。学生は、留学した大学で必要単位を取る必要があり、言葉の壁などハードルは高い。
オープンキャンパスで、在学生による留学体験を聞いた。中国の民主化と外交をテーマにマカオの大学に留学した男子学生は、多くのシンポジウムで英語の議論をしたほか、大陸にも行き、中国人に積極的に話しかけたという。マレーシア出身の女子学生は英国への留学中、ヨーロッパの10カ国以上を回り、「人との絆ができ、私の世界が広がった」と、笑顔のグループ写真を何枚も披露した。
AIUは就職支援に力を入れており、すでに一年次から「職業意識の形成」を目的とした授業が必修科目だ。キャリアセンターによると、留学した学生の多くは「日本の製品」を褒められた経験を持つことからか、就職先の約5割は製造業で国外との交渉などに当たる。しかし、テレビ局の女子アナや総合商社、メガバンクはほぼ無理。小中学校の英語教師も不適当という。
担当者は「20年前に携帯電話はなかった。20年後に、今ある仕事の何割が残っているだろうか。私たち教職員は、一緒に世界に打って出て、次世代の日本を作るために自分自身で自分を作り上げていく教育をします。日本の未来を自分が作っていくという気持ちで入ってきてほしい」と訴える。
キャンパスは秋田市郊外にあり、緑に囲まれている。といって、ガチガチのお堅い大学かと言うとそうでもない。カリキュラムには漫画・アニメ論や美術、ピアノ実技もある。アメリカ外交史、金融理論、起業家精神、国際貿易論、気候変動論などもあって多種多彩だ。
横浜国際高校に在学する男子生徒は、オープンキャンパスに父母と一緒に訪れた。「なぜ世界中で戦いがあるのか、歴史を学びながらグローバルな教育を深めたい。学生がみんな気さくに話しかけてくれた」と感想を語った。
大阪からやってきた男子生徒は「めちゃくちゃ勉強が大変そうですが、頑張ります。カナダかアメリカに留学したい」と。付き添ってきた親類は「学生たちが真面目そうです。積極的でないと伸びないので期待しています」と好印象を持ったようだった。