読書好きの子供を増やそう
「本のまち」を目指す八戸市
青森県八戸市は先月、市内の書店で使える独自の「マイブッククーポン」を市内の全児童に配布した。「本のまち八戸」を掲げる市のマイブック推進事業の一つで、読書に親しむ環境づくりとして、児童が自ら書店で本を選び購入することを体験してもらうのが狙いだ。全国でも例がない。(市原幸彦)
全小学生にクーポン配布/行政が書店運営の構想も
配布したのは市内の全47小学校に通う児童約1万2千人で、事業に賛同した市内17の書店で使える。クーポンは4枚一つづり。1枚で500円分の本と交換できる。有効期間は6月1日~8月末日。
市教委の佐々木宏恵・教育指導課指導主事によれば「小学校入学時に、市販の図書カードを送るというのはありますが、クーポンという形で、小学生全員を対象でしかも市内の書店でしか使えないというのは、珍しいと思います」。
購入できる本は小説や絵本、物語など「学校での読書の時間に読むのに適した本」という条件付き。マンガや雑誌、ゲームの攻略本、辞書、参考書、保護者向けの本とは交換できない。
佐々木主事は「最近はネット上で買えるので、書店に出かけることが非常に少なくなっている。夏休みなどに父母らと一緒に書店を訪れて本を選び、持つ喜びを味わい、読書活動に生かしてほしい」と語る。家庭向けに趣旨を記した書類を配ったほか、推薦図書を示した。書店側も専用コーナーの設置などで対応している。
また、感想文を書かせることは強制しない。「感想文となると、別な意味でしばりがかかってしまう。書きやすそうな本を選ぶとか。まずは、親子で書店に行って、本がたくさん並んでいる中から自分で選ぶという経験をさせたい。そして、それを大切に読むということを大事にしてほしい」と佐々木主事。
同事業は、小林真市長が昨年の市長選の際、3期目の政策公約として掲げた。今年度当初予算で、一般財源から総額2470万円を計上し、実現した。市教委は参考として推薦図書を提示。多くは物語や小説だが、虫歯予防、おとぎ草子、子供向けの哲学書、江戸時代の笑い話、詩集、言葉遊びといった本もある。
「教科書に載っている〈本の紹介〉という単元の中からと、図書館司書や各方面から意見を聞いて推薦図書を挙げた。書店にないときは、それに類する本を独自にそろえてもらっている」
課題も出てきた。買える本と買えない本との明確な線引きがないので、書店が迷ったり、つりは要らないといって値段より大きい額のクーポン券を渡されると、会計処理上、手間がかかったりする。
佐々木主事は「まだ始まって1カ月経っていないので、学校とともに様子を見ながら、声がけしながらやっていきたい」と語る。また、マイブッククーポン事業は来年度以降も続ける計画で、「本好きの子が本を選んだり、本を読んだり、楽しさを実感して、本好きの子が今まで以上に増えてくれれば」と期待を込める。
同市のマイブック推進事業にはこの他に2本の柱がある。他の多くの自治体でも進めている「ブックスタート」は今年度から始めた。ゼロ歳児健診時に母親に絵本を贈り、赤ちゃんと触れ合う機会を提供する。3本目は「八戸ブックセンター」で、地方の小都市では手に入りにくい上質な新刊書を備え、販売する。現在構想中だ。
「八戸市規模の街で行政が本屋をやるというのはたぶんないと思います。書店のみなさんと連携をしながら、例えば雑誌とか競合するものは置かず、まさに上質の新刊本に限定するような形で数多く取りそろえたい」(昨年12月の市長の談話)という。
3月末には、仙台市から詩人の武田こうじさんを招きトーク集会を開いた。武田さんらが主催する市民参加の「一箱古本市」などが紹介された。参加者一人ひとりが1日店主となって、要らなくなった段ボール1箱分の本を販売する。八戸市も開催を検討中だ。
市のまちづくり文化スポーツ観光部は「他の自治体でやっているいろいろな取り組みも今後検討して、さらに本のまち構想を広げていきたい」と意欲をみせている。