縄文人の神話的世界観を考察
札幌市で「こころの平和フォーラム」
縄文時代の遺跡が数多く存在する北海道。青森、秋田、岩手県の北東北地方と連携して北の縄文遺跡を世界遺産に登録する活動が道内で広がっている。そうした中、伊達市噴火湾文化研究所の大島直行所長が縄文人の神話的世界観を考察した。(札幌支局・湯朝 肇)
伊達市噴火湾文化研究所の大島直行所長
「死と再生」の観念 現代に色濃く反映
「これまでの考古学の概念では、縄文人の真の姿をとらえることはできません。生産活動や生産様式といった唯物的な視点ではなく、神話的な側面から縄文を見ることが大事です」
3月30日、札幌市内で開かれた「こころの平和フォーラム」(会長、谷口岩雄・宗教法人大本札幌南分所長)で、大島所長はこう語って、縄文時代に対する新しい捉え方を披露した。
縄文時代は今から約1万6000年前から3000年前までおよそ1万3000年間、日本列島で発展した文化だ。その特徴としては、①土器の出現②竪穴住居の普及③貝塚の存在――などが挙げられる。
小中学校の教科書では縄文時代の次に弥生時代が来る。北海道では弥生時代は存在せず、続縄文時代、擦文時代、オホーツク文化、アイヌ文化へと続いている。ちなみに、伊達市には約1600年続いたとされる北黄金貝塚がある。
大島所長はまず、フォーラム参加者に対して次のようなクイズを出した。
「なぜ『竪穴住居』は丸いのか」「なぜ『墓』を丸く掘ったのか」「なぜ1万年も『竪穴住居』に住んだのか」「なぜ『貝塚』に人を葬ったのか」「なぜ土器を深い『鉢形』につくったのか」「なぜ土器に『縄』で模様をつけたのか」など14の質問が並ぶ。
これに対して同所長は、「現在の考古学では、いくら考えてもこれらの問題に合理的な理由を見つけることはできません。この問題に明確な解答を与えるには縄文人の心、いわゆる彼らの世界観を追求する必要があります」と強調する。
そこで同所長がとった手法は、「シンボリズム(象徴化)」に着目することだった。「縄文人の精神世界の中核には『死と再生』の観念がありました。彼らは魂は死なない。蘇(よみがえ)るという考え方を持っていました。そうした『死と再生』のイメージを『月』に求め、月をシンボライズしてきます。そうしてみると、土偶が妊娠した女性であること。土偶の目がはるか彼方の月を見上げていること。縄文土器の『縄』が、脱皮を繰り返す蛇を『死と再生』のシンボルとして描いていったことなど、次々に読み解くことができます」と語る。
大島所長によれば、こうした縄文人の世界観は後代の日本人の精神構造の中に刻み込まれ、現代社会の生活習慣にも色濃く反映している。すなわち、神社のしめ縄、社殿の配置、相撲や綱引き、十五夜など数え上げればきりがない。
一方、北海道の縄文遺跡について、同所長は「道内には千歳市のキウス遺跡。ここには複数の墓がありますが、縄文時代につくられた墓としては、日本最大の規模を誇ります。また、苫小牧市の静川遺跡は規模、形状、時代性から見て日本でも例を見ない環濠遺跡で考古学的に重要な遺跡です。この他にも多くの遺跡があり、北海道は縄文の宝庫とも言えます」と明言。
世界遺産登録を目指した活動に対しては、「単に観光客誘致を目的とした遺産登録活動よりも、むしろ縄文時代の精神性に道民は目を向ける必要があります。縄文人の世界観が現代の日本人に多くの示唆を与えるからです。そうした深い文化性を知ることが先決」と訴える。
今回で17回目を数えた「心の平和フォーラム」は地域社会での精神的な絆が希薄化する現代社会にあって、人間の“こころ”の側面の誘発を促すことを目的に、2010年に設立。以来、宗教者や学者、教育者を招いてフォーラムを開催してきた。
今回のフォーラムでは「縄文人の音楽はどのようなものだったのか」「縄文人の色へのこだわりは」といったユニークな質問が出るなど、終始和やかな雰囲気で行われた。