15周年を迎えた京都市学校歴史博物館

教科書や給食の変遷をたどる

 京都の学校の歴史に関する資料の保管や展示を行っている京都市学校歴史博物館(同市下京区)が15周年の節目を迎えた。平成10年の開館以降、さまざまなテーマの展示を行い、体験教室や講座も人気だ。新年度は企画展「小学校の戦前・戦中・戦後」を皮切りにスタートするなど、展示・企画内容の充実を図っている。(池田年男)

総合・生涯学習の場に活用/子供時代を懐かしむ人も

15周年を迎えた京都市学校歴史博物館

企画展「小学校の戦前・戦中・戦後」に展示される戦地に赴く教師と子供たちの記念写真

 明治2年(1869)、「番組小学校」と呼ばれる、日本で最初の学区制の小学校を開講させた京都は、まさに近代教育の発祥地と言っていい。同博物館には、それを証言するかのように当時の資料をはじめ、教科書や教材、教具類、さらには卒業生たちが寄贈した数多くの美術工芸品がある。

 古い小学校校舎を再利用したレトロな雰囲気。常設展示フロアには昔の教科書をずらりと並べた部屋や学校給食の変遷ぶりをたどるコーナーなどがある。映像ホールでは京都で初めて小学校ができた歴史を紹介している。

 同博物館の濱井滝也・事業課長は一般来館者について、「他府県からの人が大半です。学校の歴史に特化した博物館は日本でここだけということを知って、随分遠方からも来られます」と話す。「皆さん、学校で過ごした時間がいつまでも心の宝物になっているのでしょう」とも。

 また、高石学・事業課業務係長によると、京都市内の学校関係者や教師、児童・生徒たちの見学も頻繁にある。特に、小学校から総合学習の一貫として来館するケースが多い。最近では、同市伏見区の明親小学校の児童たちが学びに訪れた。

 同校は、万延元年(1860)に設立された淀藩の藩校「明親館」が前身で、京都で唯一の元藩校。児童たちは、校名が中国の孟子から引用されたことなどを掲げられた当時の額やパネル史料を通じて知り、母校のルーツへの関心を深めていた。

 ちなみに同校では、競馬場に近い立地を生かして乗馬体験のクラブ活動も行い、情操教育に役立てている。伝統を継承するとともに独自性を発揮しているところが、いかにも京都の学校らしい。

 開館15周年を記念して4月から「小学校の戦前・戦中・戦後」展が始まる。平成23年度以降に寄贈された収蔵品を通して、昭和の激動期における学校生活を振り返るという内容だ。

 出品されるのは、戦前の小学校の卒業記念写真帖や文房具、戦時下の通知表、教育勅語、学童集団疎開に関する資料、戦後のガリ版の謄写版、PTA(育友会)の会紙、区民運動会での写真など、実に幅広い。

 その中にある、昭和18年(1943)の西院国民学校で撮られた「塩見先生応召送別記念写真」は、戦地に赴く20代と見られるシャツ姿の青年教師を中心に、日に焼けた子供たちが並んだ夏のひとこま。前列の子供たちは校庭の池に足を浸しながら無邪気な笑顔を見せている。

 靖国神社の社頭での整列写真(同年)からも当時の張り詰めた空気が伝わってくる。「第五回遺児靖国神社参拝記念写真」とあるから、子供たちは戦死した父親の英霊に深々と頭を垂れたのだろう。引き締まった顔つきがいじらしい。同様の参拝が恒常化していたことも分かる。このほか、軍事教練の写真、6年生用の学芸会脚本『二十四の瞳』なども展示される。同展は4月12日から6月30日まで。

 15年間の歩みの中で、教育関係者をはじめ来館者から好評だった企画の一つが「思い出の学校行事」展だ。平成17年秋に行われたもので、学芸会や運動会の起源を探るという趣旨だった。

 通常の授業とは違う学校行事が生み出す教育効果を考察。期間中、大阪市立大の矢野裕俊教授は講演で、日本の学校の特色は種々さまざまな行事があることだ、などと興味深い見解を示した。

 「(それは)知育だけでなく、芸術・情操教育や健康な身体、体力づくりなどを重視した、バランスのとれた全人的な発達を目指しているからにほかならない。欧米の小学校が概して“読み書き、計算”を主とした知育中心であるのと対照的で、欧米と比べてユニークな学校文化だと思う」と強調した。

 同博物館では、主に年配の人々が集う唱歌・童謡教室も開催。生涯学習の場としても人気を博している。