名前の1文字を半紙に表現 金沢市で8日から展示会
子供たちが自分の名前の中から大好きな一文字を選び、半紙に墨や絵の具で著した「名前一文字展」が8日から、金沢市の「金沢ふるさと偉人館」で開かれる。一つの文字を通して、家族のつながりを深めるきっかけになれば、と企画されたもので、毎年、大きな反響を呼んでいる。(日下一彦)
家族の絆考えるきっかけに
子供たちの豊かな感性伝わる
「名前一文字展」は平成16年に始まり、今回で9回を数える。今では同館の恒例行事として定着し、人気も高い。
同展の生みの親で前館長の松田章一さんは、「名前は生涯付き合っていく文字です。姓を書く子は何でこんな字を書くんだろうと、自分の家の歴史を考えるでしょう。名前を書く子は、両親や祖父母がどうしてこんな名前を付けてくれたんだろうと、自分に託した願いを聞くことができます。そのきっかけになれば良いですね」と開催の意図を語っていた。
作品は保育園児や幼稚園児、小学校の児童たちが自分の名前の中で大好きな一文字を選び、半紙に筆で描いている。墨でも絵の具でもどちらで書いても良い。
どうして一文字なのかについて、松田さんは「自由に思いっきり書いて欲しかったのです。文字が多くなると紙に収まりきれなくなり、2字だと字配りが必要になります」と語り、長年、教師として子供たちに接してきた細やかな体験が生かされている。
応募は当初2000点余りだったが、年々話題を呼び、今では6000点を超えている。作品は前期と後期に分けてすべて展示し、期間中は2階の常設展示コーナー以外は1階から階段、3階ロビーまで、壁一面に子供たちの字で埋め尽くされる。
一点一点作品を見ていくと、子供たちの感性の豊かさに驚かされる。オーソドックスな毛筆があれば、絵筆を使って鮮やかな色彩で描いた作品もある。小学校高学年ともなると、楷書(かいしょ)では飽き足らず、わざとかすれた技法で描いて味わいを出してみたり、躍るような変形文字を紙面いっぱいに描いたりと、実に多彩で個性的だ。
松田さんは「作品は子供たちの“心の自画像”です」と説明し、「書き初めのように手本がないので、自分を表現する上でとても良く、ちょうど画家が自画像を描くようです」という。
また、年齢を越えて一堂に展示されているので、保育園や幼稚園児と小学生との表現の違いも見えてくる。松田さんによれば、小学生になるとそろそろ物心が付いてきて、自分を良く見せようと意識するが、就学前の園児にはそれがない。
「無鉄砲ですが何のためらいもなく、上手下手もありません。力強くて、アッという間に書き上げ、一枚書けばもうお仕舞いです。ですから、そこに自分が出ています。それが本当だろうと思いますね。そんな姿を見ていると、教育とは子供たちの秘めた力をどこかで削いでいるのかなという感じもします」と、示唆に富んだ指摘が印象的だった。
応募作品の中から書道家やイラスト作家ら5人が審査し、優秀作品を選んでいる。選ばれる優秀作品は全体の約5%で、審査の基準は字の上手下手だけでなく、デザイン性や子供らしさなどが加味され、各審査員に任せられている。また、紙の隅っこに書かれていてもその配分が良いとか、墨で描いていても絵画的で良いとかさまざまだ。
「ですから、意外と学校ではあまり表彰されたことがない子供たちが優秀賞に選ばれるんです。すると周囲から『なんでお前が選ばれたんだ』と言われたりすることもあるようですが、作品を見ると『やっぱりすごいな』と称賛されたという話も耳にしました。また、受賞した子供たちに自信が出てきたという話もよく聞きます。それを考えると、選ぶことも大切ですね」と松田さん。
昨年の作品展で話を聞いた年配の婦人は、「毎年、孫の文字を見るのが楽しみです。学年が進むにつれ表現の仕方が変わり、毎回、とても驚かされます。他の子供たちの作品も温かいものが伝わり、とても感動しています。これからもずっと続けていって欲しいですね」と話していた。
展示期間は前期が2月8日(土)~3月2日(日)までで、「年長、小学2・4・6年生」の作品を展示。後期は3月15日(土)~4月6日(日)で、「年中以下、小学1・3・5年生」となっている。問い合わせ=076―220―2474