迷った挙句の盆の帰省、意識した国難下の夏


 「いつまで続くのかな?」

 人と会えば、あいさつ代わりにこんな言葉が交わされるコロナ禍の昨今。マスクを着けた顔では表情が分かりにくいが、誰もがやり場のない思いを抱えているのが伝わってくる。

 恨めしいコロナ禍だが、東京で単身赴任生活の身にとってはなおさらだ。感染者が多い東京からは、地方に住む家族の元に帰ることがはばかられる。筆者は正月に帰省して以来、半年間、家族に会っていなかった。

 お盆には、墓参りを兼ねてぜひとも帰省しようと思っていた。しかし、政府も帰省先のY市も「慎重に」という。妻子との再会だけでなく、先祖の霊を迎えることもできないのか、と腹が立ったが、感染防止に努めることも国民の義務だと思えば迷ってしまう。

 Y市が8月7日、住民に送信した「お願い」を、妻が転送してきた。確かにそこには「本市への帰省は慎重に」とあった。しかし、帰省の場合は①帰省前は感染リスクを避ける行動に努める②発熱・せきなどの症状がある場合は自粛を③症状が出た場合は外出を控え、重症化リスクの高い人との接触、会合への参加を絶対避ける――とあった。

 要するに、「注意事項を守って行動すればいいわけだな」と、思い切って帰省することにした。しかし、東京から人がやって来ることを快く思わない人は少なくないし、もし感染者を出したら大事になるのは間違いない。帰っても、家から出ないで、家族以外には誰にも会わないことにした。

 お盆直前だというのに、羽田空港はガラガラ。飛行機の席も埋まったのは半分くらいなものか。いやが応にも国難下の夏を意識させられたが、空港に迎えに来た妻の「お帰りなさい」という明るい声が、コロナ禍の憂さを忘れさせてくれた。それでも「思い切って帰省して良かった」と思えたのは、東京に戻って、家族の誰にも体調の変化がないことを確かめてからだった。

(森)